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森乱丸が、生まれ育った金山城を後にして、安土城下にある森家の屋敷に入ったのは、五日前のことだった。
城下の通りは木材やら瓦やらを運ぶ荷車、商人や職人、物売りらがひっきりなしに往来し、町は活気に満ちていた。
安土山の裾野には立派な門構えの武家屋敷が建ち並び、その一角に森家の屋敷があった。
乱丸が信長公と初めて会ったのは、六歳のときのこと。
彼の父、森 可成は、美濃国にある金山城の主だったが、乱丸が六歳のとき、浅井朝倉との合戦で討死した。
家督を継いだのは、乱丸の七つ年上の兄、長可だった。
長可が金山城主となった報告と挨拶を兼ねて、一家総出で岐阜城を訪ね信長に謁見したところ、信長は乱丸に「十三歳になったら儂のもとに来るか」と訊ね、乱丸は「はい」と答えた。
それ以来、森家では乱丸を「信長の側近候補」として英才教育を施し、大事に育ててきた。
あれから七年。
ついに小姓として信長公に仕えることが、正式に決まった。
明日からはじまる新しい生活に、期待と不安の両方を抱きつつ、好奇心旺盛な乱丸は、どちらかというと期待のほうに胸を弾ませていた。
一方、六佐とはつは、心配のあまり落ち着かないようだった。
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