第1章 出会い

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「乱丸さま、お行儀よくなさっておられるのですよ」 「とくに上さまに対しては、お口のききかたにお気をつけくださいませ」 「上さまだけではなく他のご家来方に対しても、決してずけずけと物を申されてはなりません。いいですね?」  夕食をとる乱丸を挟んで、両側から六佐とはつが口うるさく忠告した。  ──はいはい、大変よくわかってますよっと。  乱丸は慣れたもので、あたかも真剣に耳を傾けているような顔をして、右から左へ聞き流していた。  食事を終えて風呂に入ると、明日に備えて、乱丸は早々に布団に入った。  いよいよ、初登城の朝が来た。  記念すべき乱丸の織田家臣としての第一歩を見送るため、森邸にいる家臣や奉公人は無論、乳母のはつを筆頭に女衆も全員、玄関の外に出てきた。 「乱丸さま、くれぐれもお気をつけくださいませ」  はつは、息子を戦場に送り出すような表情で、こみあげる涙を袂で拭った。  ──まったく、大袈裟だなぁ。  乱丸は内心では呆れていたが、おもてに出しては「心配せずとも夕刻には帰る」と笑みを見せた。 「そろそろ行きませんと、乱丸さま」  傅役の武藤六佐が、乱丸の背に手をそえて促した。 「では、行ってまいる」
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