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「行ってらっしゃいませ」
深々と頭を下げる家臣一同を背に、乱丸は六佐を連れて、安土城へ向かった。
「今日はよい天気だのう」
上り坂を歩きながら、乱丸は眼前にそびえる安土山の山頂を見上げた。
安土城の天守はまだ完成しておらず、信長は本丸に建てられた御殿を仮の住まいとしている。
乱丸たちが本丸御殿に到着し、そこにいた者に名前と用件を伝えると、約束どおり万見仙千代が出迎えてくれた。
「おはようございます」
仙千代に笑みをかけられ、乱丸は息をのんだ。
美しい人だと既にわかっていたはずなのに、あらためて目の当たりにすると、その美貌に圧倒されて呼吸をするのを忘れてしまう。
──「息をのむ」ことも、本当にあるのか……。
またひとつ慣用句の事実に気づいた乱丸は、はにかんで頬を染めた。
「どうぞ、こちらへ」
広い御殿の廊下を、仙千代のあとについて行った。
仙千代は艶やかな黒髪を後頭部の高い位置にひとつに束ね、その髻──髪を束ねた部分は、修善寺紙の平元結で飾られている。
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