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「いやいや、それがしはただ長く勤めているだけのこと」
にこにこと謙遜する高橋虎松は、体つきは大柄で凛々しい顔立ちをしているが、人柄は温厚そうに見えた。
一方、長谷川竹は、仙千代に負けず劣らずの眉目秀麗な若者だが、愛想笑いのひとつも浮かべるでもなく、とっつきにくい印象を受けた。
「上さまがお見えになられます」
先触れの小姓が告げた。
ほどなくして、上段の間に信長が颯爽と登場し、乱丸たちは深々と頭を垂れた。
「おもてを上げよ」
乱丸は頭を上げた。
七年ぶりに見る信長の顔は、記憶にあるよりも精悍で、以前にはなかった顎鬚をたくわえているが、全身からみなぎるような若々しさは変わっていなかった。
「ほう、大きくなったな、乱。安土には慣れたか?」
乱丸はこの地に来て数日しか経っておらず、まだ右も左もわからなかったが、この場の空気を読んで、
「はっ」と答えた。
「わからぬことがあれば仙千代や虎松に聞けばよい。逸らず勤めよ」
それだけ言うと、信長は来たときと同じように足早に去って行った。
「終わりました」
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