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仙千代が告げた。
「はぁ……」
乱丸は拍子抜けした。
実は何日も前から、信長にああ聞かれたらこう答えよう、こう聞かれたらああ答えようと大真面目に考えて、頭の中で練習を繰り返していたのだ。
それなのに、発した言葉は「はっ」の一言だけ。
「それがしは……なにか粗相をいたしましたか……?」
おそるおそる訊ねた乱丸に、
「上出来です」
仙千代はほほえんだ。
「儂の時は、立ったまま『ふむ、勤めに励め』の一言だった。それに比べれば長いものだ」
高橋虎松はからからと笑った。
「そういうものなのですか?」
「そういうものです──他家のことは存じませんが、上さまの場合は」
新米の戸惑いや驚きに慣れている仙千代は、乱丸を安心させるため、にこやかな表情を崩さなかった。
──お美しいだけではなく、儂のような新参者にも気をつかって笑顔で接してくださる。なんと出来た御仁なのだろう。
乱丸は憧れのまなざしで、仙千代を見つめた。
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