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その空虚な場所で声を聞いた。
――貴女の名前は?
名前? 一体、どういうことなの? 夢? にしては変だ。
声は再び同じ質問をして、答えを催促した。
『その前に、ここは何なの? 貴女は一体…』
――貴女の名前は?
『ねえ、聞いてよ!』
――貴女の名前は?
駄目だ。取り付く島もない。せめて自己紹介くらいは先に済ませてほしいものだ。
私はうんざりした気持ちのまま小さな声で答えた。
『ミサと呼んで』
これは、私の本名を読み替えたものだ。小学生の頃に先生から呼び間違えられたことが原因だが、今ではニックネームとして自分から名乗っている。
声は満足したのか次の質問をしてきた。
――種族を決めて
声の直後に、様々な姿の私が姿を見せた。とんがり耳の私。人魚のような私。ウェアウルフの私。トラのような私。
私は迷わず、天使のような有翼人のアバターを指さした。
――貴女の職業は?
そこには、以前にゲームで見た3つの職業が姿を見せた。
ロングボウとレイピアを構えた私、多分これは戦士。
杖をしっかりと両手で持つ私、恐らく魔導士。
ショートボウと小さな杖を持った私、こっちは軽戦士かな。
私が魔導士を選ぶと、何者かの意識が流れ込んできた。
体中の血が騒ぐというのだろうか。全身の皮膚に鳥肌が立ったまま声を聞いた。
――100人。悪魔に勝利せよ。
100人とは、あの妙な手紙が届いた人数のことのようだ。悪魔とは何だろう。きっと人知を超えた何かであることは間違いない。
私は結局、就職することのできなかった大学生。いや、昨日まではそうだったけれど、今は就職浪人というべき状況だ。そんなことができるはずが…
そう思ったとき、私の頭に声が響いた。
――ターンエンド
なにそれ。どういう効果があるの?
――この端末を失くしてはならない。もし、壊れれば死ぬこととなる。
そのスマートフォンのような赤い端末を受け取ると、眩い光が私の視界を奪った。
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