4月1日の出来事

4/5
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
 グリフォンの巣から離れたところで、私は改めて周囲を見渡してみた。  近くにあるのは、岩場とか雑木林とか川。街や村はおろか、掘立小屋すら見当たらない。  これは、一体どうなってしまっているのだろう。  妙な手紙を手にしてから、宇宙のような空間に連れていかれたり、大きな鳥の巣の中にいたり、気が付いたら夜になっていたりと、何がどうなっているのかさっぱりだ。  唯一の望みは、私と同じような立場の人が99人いることくらいか。それも私自身で確かめた訳じゃないから何とも言えないけれど…  そうだ。荷物の中に役立つものはないだろうか。  私は自分の持ち物を調べてみた。  手元にあったのは紙幣が何枚か入った財布に、固く焼いたビスケットのような食べ物が幾つかあるくらいだ。上着ではなくズボンのポケットには何が入っているのだろう。  おや、何やら硬いものがある。取り出してみると、スマートフォンのような代物だった。  試しにいじってみると光を放ち、画面が映し出された。  操作方法も、私の持つスマートフォンとよく似ていた。中にはプロフィールや簡単な電卓機能、カメラ機能や運営からのお知らせの欄まである。 『なにこれ…?』  私はそう呟きながら、スマートフォンのような端末を眺め続けた。  先ほどの声も頭の中によみがえってくる。  100人。悪魔を倒せ。アビリティ。そして端末に書かれた、運営からのお知らせという言葉や、プレイヤーミサ…私自身のプロフィール。  自然と独り言が出た。 『つまり、ゲームのような異世界にいる…ということ!?』  要するに、この妙な世界から帰りたければ、悪魔という何かを倒さないとならない…ということになるのだろう。こういうMMORPGのような世界なら、まず仲間を集めることが肝心なんだけれど、あいにく私は、こういうことには慣れていない。  せめて、何か売り込むようなものがあればいいのだけれど…  そう思った時、ターンエンドという言葉を思い出した。あれはどういう意味なのだろう。端末のプロフィール欄を開くと、そこにはターンエンドという名前と共に効果が記されていた。 【ターンエンド: 今日を終了する】  説明はたったの7文字だった。カードゲームなどでは、短いテキストのカードは強いというけど、これではどんな効果を持っているのかはわからない。  首をかしげながら端末の画面を戻すと、端末のメイン画面に日付や時刻が表示されていることに気が付いた。 【997年4月2日 0:17】  あれ? と思った。私があの郵便物を受け取った時は、4月1日だったはず。少し考えてみると、グリフォンの巣で何かを叫んだことを思い出した。 『もしかして、あの時にターンを終了したってことかな?』  そのおかげで、私はグリフォンに襲われずに済んだ。ターンを終了するだけの能力だけれど、使い方によっては侮れない能力かもしれない。 「うおおぉおおおおおぉぉぉおおおおおぉん!」 「わおおおおぉおおおおおぉぉぉおおおん!」  何だか狼の遠吠えに似ている。どうやら、この世界も私の住む世界と似たような生き物がいるみたい。狼なら取り囲まれる前に逃れないと。  周囲を見回すと、ちょうど小高い丘があった。駆け足でその場所に向かい、頂きに立って翼を広げる。  さすがに崖の上だから飛び立つには勇気がいる。だけど、狼の遠吠えを思い出すと悠長なことは言っていられないように思えた。  私は深呼吸をすると、一気に翼を広げ、そして地面を蹴った。  体はふわりと空に飛びあがったけれど、徐々に地面に向かって落ちていく。何とか風に乗ろうと思ったけれど、風が吹くと体は一気に傾いて、そのまま地面に落下してしまった。  幸いにも地面が柔らかかったからケガはしなかったけれど、空を飛ぶには練習が必要なようだ。  とりあえず、服に付いた汚れを払うと、私は人里を探すことにした。今は夜だから月明かりだけが頼りだ。
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!