997年4月5日

1/5
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ

997年4月5日

 そっと目を開けると、辺りは朝もやに包まれていた。  4月とはいえ、早朝の寒さはなかなか厳しいものだった。グリフォンが寄り添ってくれなければ凍えていたかもしれない。  音を立てないように端末を手に取ると、時刻は6時を少し過ぎている。  横目でグリフォンを見ると、彼はまだ眠っていた。呼吸に合わせて体が動いているのがなんともおもしろい。  あ、そういえばこのグリフォン、私のことをひな鳥だと思っているかもしれない。人間であることがわかってしまったら、襲われてしまうだろうか。  もしそうなら、今のうちにターンエンドと叫んで6日に逃げるべきだろうか。確かに、グリフォンからは逃げられるけど、また深夜帯に逆戻りしてしまう。  私には身を守る武器も、辺りを照らす松明もない。闇雲に深夜の森の中を歩いても、昨夜のように骸骨か何かに襲われるのがオチだろう。  それならどこかに隠れてやり過ごせば…いや、それでも隠れ家になる場所を探さなければいけないし、隠れていても肉食獣に嗅ぎつけられるのが関の山かな。  おや、グリフォンが起きた。 「…オキタカ」 『お、おはよう…昨日はありがとう』  グリフォンはじっと私を眺めていた。  彼は目を細めた。 「オマエ、ナニモノ?」  どうしよう。鳥と答えるべきかな。でも、こう聞いてきたのは仲間には見えなかったからだよね。  彼には助けてもらったし、ここは正直に答えるべきか。 『人間だよ』 「ニンゲン…?」  グリフォンはゆっくりと立つと、じっと私を眺めた。  もしかしたら、翼があることが気になっているのかな。でも、この体のことを聞かれても困るな。私だって有翼人のことはよくわからないし。  困り顔のままグリフォンを眺めていたら、彼はゆっくりと言葉を口にした。 「ニンゲン、ウソツク、ハズ」 『人間だって嘘をつかないことも多いんだよ』  グリフォンは少し表情を変えた。その雰囲気は悩んでいるようにも見える。 「オマエ、ナマエハ?」 『ミサ』 「みさ…」 『貴方は?』 「うらがん、ヨバレテイル」 『ウラガン…』 「コイ」
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!