3.御初穂料はカップラーメンを

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「水城君、今回のご祈祷の内容なんだけど」 「え?ああ、厄祓いですよね」  梨香は、細筆を持ち御朱印帳を開くとサラサラと日付と『奉納者 徳丸涼子』と名前を書き始めていた。  晴明神社の行う祈祷の記録と報告も、立派な神社の仕事である。彼女は、御朱印帳を使って祈祷日誌のようにして記録していた。  藍色の和紙に金色の五芒星が印字されている晴明神社特製の御朱印帳は、この色の他に色違いで3種類ある。 「安産祈願」 「‥‥‥え?」  真顔の晴人を見上げていた梨香は、思わずポカーンと口を半開きになった。何秒か経った後に、晴人が吐いた息に言葉を乗せる。 「彼女、たぶん妊娠しているんじゃないかな」 「うええーっ!!どうしてですか?!」 ガタッガタッ 梨香は晴人の発言に仰天すると、声を上げて立ち上がった。 「体、月のものの頃なのに辛そうじゃなかっただろう?」  晴人は自分の手を見つめて、その時のことを手の感触から思い出しているかのように手を見つめて握ったり開いたりして話を続けた。 「あと、平熱が低い彼女の体温が1.0度以上高かった。風邪の症状でもなさそうだし、多分女性ホルモンの働きで基礎代謝が上がっているんだろう」 「手、握っただけでそんなこと分かるんですか?」 「僕は安産祈願の関係で、妊婦さんの手に触れる機会が比較的多いね」 「‥‥う、うわぁ」  梨香は思わず自分の手を見つめると、晴人を見てヒクッと顔を引きつらせた。手を握るなんてロマンチックでドキドキする。しかし今は決してロマンチックでもないし、この鼓動は心臓にいい意味のドキドキではなかった。  涼子の父親は、京都市議会議員を何期も務めている先生だ。涼子がとても自然に握手をして挨拶をしていたのは、きっと父親の選挙活動でもしているからだったのだろうと晴人は推理した。 「だから『厄祓い』じゃなくて『安産祈願』と書いておこう」 「先生ぇ」 梨香は、込み上げる想いに胸が熱くなる。 「‥‥‥彼女、厄年じゃないしね」 「ーっ!!」  晴人はゆっくりと梨香に視線をうつして、低音で心地の良い優しい声色で囁いた。  相変わらず無表情なのに、三日月になるその仄暗い瞳はまるで神様の使いのように慈愛に満ちている。 彼はー 『厄年じゃないから厄祓いではない』と言った生徒を優しく揶揄う無邪気な講師で、厄を祓ったわけではなく、この地に住う八百万の神の御加護を宿した母に祈祷祈願をする神主だ。 「もう!先生っ!それすっごく素敵です!」 梨香は、顔をくしゃくしゃにして黄色い歓声を上げた。 ペケペケペケッ  そして御朱印帳の祈祷内容に書きかけた、厄祓いの厄という文字に大きく朱色でペケとバツ印を連打した。 本日の祈祷は、安産祈願!
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