第一章 嘘吐き裁判、開廷。

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第一章 嘘吐き裁判、開廷。

ギィィィ…。 扉が開かれた。 目の前に広がる法廷の場。 周りの席はすべて動物客で埋め尽くされていた。 一番奥には裁判長の席。 左右には弁護席と検察席。 己が入ってきた扉の前には被告の席が用意されていた。 被告動物…宇佐美モモは指定された別の席に腰を下ろす。 そして私は、弁護人の席へと立った。 すると、 「これより、生物王国裁判所。大法廷より、被告、宇佐美モモの判決を決めるための裁判を始める。」 一番奥の裁判長席に座っていた…ネズミがそう述べた。 「検察側、弁護側、ともに準備は整っていますか?」 ネズミ裁判長はそう言うと、見下ろすようにして左右の席に声をかけた。 「…検察側、否応なし。」 そう言ってだるそうにしているのは、検察官、大神ウルフ(オオガミウルフ) 『弁護側、同じく。』 私はネズミ裁判長の方に視線を向けつつそう述べた。 「宜しい。それでは汚らわしい被告動物よ。証言台へ出なさい。」 ネズミ裁判長は厳しい目つきでそう言うと、被告を見た。 「…はい。」 被告、宇佐美モモは、まるで蛇に睨まれた蛙のように身を縮こまらせながら被告席へと立った。 「名前と職業、それから種類を述べよ。」 ネズミ裁判長は被告席を視線で見下ろす。 「えぇと。宇佐美モモ、生物大学2年生、兎族です。」 ビクビクしながら答える宇佐美。 「宜しい。それでは検察よ。事件のあらましを話しなさい。」 ネズミ裁判長は頷くと、ちらりと検察席を見る。 「…仰せのままに。」 ウルフはそう言うと、一つのファイルを取り出し、それを見る。 「これによると、その嬢ちゃんは昨日、通っている生物大学で友人と会話中、新しい高級バッグを買ったと言った友人に対し、自分も買ったという話をしたそうだ。しかし、実際に見せてもらったところ、それは高級バッグではなく単なる安物のバッグだったそうだ。…つまり、その嬢ちゃんの罪は、『嘘吐き罪』だ。さらにその後これは本当に高級バッグなんだという趣旨の供述をし、友人を騙そうとしたから『騙し罪』も確定だ。…以上が事のあらましだな。」 ウルフはそう言って二つの罪の名を述べた。 「流石、検察界一の実力を持つ男と言われているだけはありますね。すでに罪の名前まで調べているなんて優秀なことです。」 ネズミ裁判長はそう言ってクスリと笑う。 「…それは光栄なことで。」 ウルフはそう言いながら後ろの壁にもたれかかる。 「あ、あの!私騙したつもりなんて本当になくて!それに、買ったときにお店の人に言われたんです!!このバッグは高級なものだから10万払えって!だから私、親からお金借りて10万で買いました!本当なんです!信じてください!何ならお店の人に確認を…!」 宇佐美は必死にそう言う。 「黙りなさい、汚らわしい罪人が…!まだしゃべることは許可していません。それから、見た目からして安物なのは明らかなのですよ。」 そういうと、ネズミ裁判長は一枚の写真を掲げた。 その写真に写っているのは、色あせたサーモンピンク色のショルダーバッグだった。 『確かにこれは安物に見えるわね。』 私は、弁護人にもかかわらずそんなことを言う。 「…決まりだな。この兎を『嘘吐き罪』と『騙し罪』の二つの容疑で裁く。」 「そうですね。そうしましょうか。」 検察と裁判長はそう言う。 「そんな!本当に言われたんです!!10万払ったんです!」 宇佐美は必死に言う。 『…そんなに言うのなら、私が警察に確認してもらうわ。よろしいかしら、ネズミさん?』 私は、軽くため息をつきながらもそう言ってネズミ裁判長を見る。 「そのようなことをする必要はありません。…と言いたいところですが、貴女の役職に免じて、特別に許可しましょう。」 裁判長はそう言うと、警官を呼び出して事情を説明。そして警官はその店に向かった。 「どうせ調べても意味はねぇだろうが、せめてもの悪あがきだな…。」 ウルフはそう言うと、フンッと鼻を鳴らす。 『どうなるかは私もわからないけれど、これでも私は弁護士だから、しないといけないこともあるのよ』 私は腕を組んでそう述べる。 「…それでは、警官が捜査を終えるまでの10分間、休憩を取ります。 10分後、再び再開しますよ。」 ネズミ裁判長のその一言と鐘の音で、裁判は一旦終わった…。
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