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みんなこんなジェイを初めて見る。
(知らないジェイだ……)
そこにいるのはチームの一員としてのジェイじゃない、一つの城を守る店主のジェイだ。
「俺のパートナーを『あっち』って言ったの? じゃ野坂さんのことは? 大滝さんのことは? 萩原さんのことは?」
みんな役員の名前。
「澤邑さんのことは? あっち? そっち? どっち?」
「君! 社長のことをなんだと」
「同じだけど。社長、店長、変わんないけど。取引先に上下付けるの? 提携破棄って言うんならいいよ。違約金払ってくれればそれで。そっちの社長通して話しましょう、上同士で。あなた、こっちからすれば下だから」
親父っさんも座敷から出てきていたが、余計なことは何も言わない。
(こりゃ踏ん張りどころだな。初っ端でダメにするならそれも良し。商売はどっかギャンブルと似てるもんだ)
イチたちが拳を握るのを抑えた。
板垣が怒鳴る前に大滝がすっとその前に出た。ジェイに頭を下げる。
「申し訳なかった! 店長の怒るのは尤もだ。こちらもわきまえてはいたんだが、何せ料理と酒が美味かった! 板垣さんはずい分と酔ったらしい」
「大滝くん!」
「板垣さん、ここに一歩入れば無礼講。そういう店がほしいという役員会の一致だったはずでしょう。役員会の結束にも、取引先と商談をまとめるのにも助るからと彼らを説得したのは我々だ、違いますか?」
そんな裏の実情があったのか、とR&Dのメンバーたちが驚く。
(すごいなぁ…… 思い付きとかやりたいからだけでやってるんじゃないんだ…… きちんと経営を考えて戦術も立てて仕事してるんだ……)
石尾は思う。先輩はどこまで行っても先輩であり続ける。それは河野部長も。ちゃんと覚悟を持ってやっている。
(新しいものを背負ったんだな、河野)
これは坂崎の思い。
(俺はお前を尊敬するよ)
だから立ち上がった。
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