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「かーえれ、かーえれ」
手を打ちながらの帰れコール。自分に出来る応援。
「かーえれ、かーえれ」
次に立ち上がったのはありさ。そして塚田。外部の人間だから頓着無い。それに釣られて次々と立つ。
「明日の後悔より今の正直な気持ちだぁ、かーえれ、かーえれ」
哲平のデカい声。声が加わっていく。
「聞こえねぇの? あんた、帰れって言われてんだよ」
花が板垣の真ん前に立った。
「花さん、だめ!」
「黙れ、弟がコケにされて黙ってられるか! これで会社で仕返ししてくるようなみみっちい男なら、俺だって会社辞めてやる! 俺はほとんど飲んじゃいない、だから自分が何言ってんのか分かって言ってる。男としての懐、見せてもらいたい。会社じゃしょうがねぇよ、けど外じゃあんたと俺は人間と人間なんだ。人生の重み、お互いに背負ってる。そこに上、下、あって堪るか!」
「なら俺たちもだ」
池沢、野瀬、広岡、尾高、中山、……
「君たち、こんな店と心中するのか?」
池沢ははっきりと言った。
「俺たちと心中覚悟でいつも蓮ちゃんは戦ってくれた。R&Dが会社ん中で迫害されてた頃からずっとだ。俺たちには外からは分からない絆がある。普通こんなもの持てないよ。仕事の楽しさ、厳しさ、みんな蓮ちゃんが俺たちに叩きこんでくれた。歴史があるんだ、俺たちには。こんな店? ふざけるな、ここは第二のR&Dだ!」
(最初からあなたの背中を見てきましたよ。あなたが課長になった時から。俺はどこまでもついて行こうと思ったんだ。ここでの覚悟、俺にもちっとは背負わせてください)
親父っさんは今の池沢の啖呵に涙が落ちた。
(いい男だ、ありさ。お前は幸せもんだ)
「すみません、何が問題なのか分からないです」
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