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明るい穏やかな声。
「父さん、」
「この人は何を怒ってるのかな、マイボーイ。私には分からない。『こうしましょう』というルールがある。そこで『こうしなかった』。それは良くないというだけのことです。板垣さん、お子さんおいでですか?」
「……いるが」
「じゃ、お子さんに対して思いませんか? 『幸せになりますように』って。蓮ちゃんとジェイは会社からすれば巣立った子どもです。じゃ、祝福してあげましょう。今日はそのために来たんですから。それだけのことでしょう?」
「…………それだけのことだ。あなたの言う通り。失礼した、皆さん」
一息吸って板垣は大滝に向かった。
「大滝さん、その祝い金のことは君に……あなたに任せる。いいかな」
「ええ、いいですとも」
「じゃ」
板垣は出て行った。多分もう個人的には来ないだろう。それでも構わない、蓮もジェイもそう思っている。
「蓮ちゃん、店長。お騒がせしました。皆さんにもご迷惑かけました。蓮ちゃん、これは祝い金であるとともに、我が社からの迷惑料でもある。謝罪の意味も込めて受け取っていただきたい。営業妨害したのを許していただきたい」
頭を下げた大滝に他の役員も倣う。元々が蓮を見込んでこその事業的提案だった。板垣の態度は、ある意味暴走とも言える。あれでは因縁を吹っかけた悪質な客と言われてもしょうがない。
(良かった、たまたまウチの社員ばっかりで。一般客がいたらなんと思われたか)
そんな気持ちがある。河野なら営業妨害で訴えかねない、それを知っている。
「いえ、いいんです。分かっていただければ」
ジェイが元の穏やかな顔に戻った。
「ウチのマスターにも後で言っておきます。もっと上手にお客さんとお話ししてって」
「ジェイ!」
「黙って! 俺は店長だよ!」
鋭い声に蓮が黙った。
「祝い金、喜んでお受け取りします。野坂さん、萩原さん。どうぞまた来てください。俺たちももっと商売を勉強します!」
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