直前

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  「やっと連休!」  叫んだのは橋田。最近出来た彼と旅行に行くとかでどうしても休日出勤したくなかった。ぎりぎりで自分の責任範囲を果たしたからホッとしている。 「もう午後はのんびりー」 「お昼、どこに行く?」  井上が声をかけた。一緒に食べに行くらしい。 「この辺り、もう飽きちゃったよねぇ」 「そうね、目新しいところないし。もう何年も同じところ行ったり来たり」  澤田も話に入って行く。 「昼もだけど朝困るよ! あのカフェが移転しちゃうなんて思わなかったよ。貴重なモーニングが消えたの、痛い!」 「俺も困っている」  中山だ。あの社員旅行ではコーヒーチケットをビンゴで当てて大喜びだった。やはり朝のお供だったカフェのコーヒー。  半年前に閉店してしまったあのカフェには結構思い出も詰まっていたから、みんなのがっかりは大きかった。 「あそこ、ずっと改装してるけどどうなるのかな!」 「場所がいいからすげぇレストランが出来るんじゃないか?」 「そうなると高値の花ってことになりそう……」  どっちにしろR&Dのメンバーは目新しくて美味しいランチを諦めるしかなさそうだった。  夕方。R&Dに届いた郵便の中に哲平宛の分厚い封筒が来た。中を見た哲平はニヤッと笑い、慌てて笑いを引っ込めた。 「えっと……浜田! これ配ってくんないか」 「ええ、そういうの新人の仕事だろ」 「だめ、配って。招待状だから」 「招待状?」  みんなの手が止まる。そういうのなら話は別、と浜田は喜んでモスグリーンの封筒を配り始めた。 「なんの招待状?」  花も気になって背を伸ばす。  手元に来た封筒を見て自分の名前がタイピングされているのに驚いた。 「なんなの? 俺宛って、みんなも名前有り?」 「有りぃ」  七生が答える。みんな封筒を開け始めた。 「『なごみ亭』……」  花が呟いた。 「なごみてぇ?」  和田の手元にはまだ来ていない。 「な、ご、み、て、い! これってあそこのカフェの場所だよね?」  花に言われて中山がすぐに確認した。 「ほんとだ…… なんだ、『なごみ亭』って名前じゃ料亭かな」 「でもなんで俺たちに?」  翔と石尾が目を合わせて首を傾けた。心当たりが無い。  この日、『なごみ亭』からの招待状を受け取った者はR&Dの今年の新人以外と営業の何人か。もちろん、坂崎営業部長にも行っている。  
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