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定位置である一番右隅のカウンター席に腰を下ろすと、翔生は日向と定番のやり取りをした。
"いつもの"
具体名を挙げなくても理解できる__それは、翔生がいかにこの店に多く出入りしているかを示す。
「……何だか、機嫌がいいな?」
日向の行動をぼんやりと見ていて気がついた。
その表情も動きも、いつになく柔らかく軽やかで背中からでさえ気持ちが浮ついているのが伝わってきそうだ。
「大事な友人が好きな相手と結ばれたんだ。嬉しくってさ!」
振り返った日向は、本当に嬉しそうに目を細めて破顔した。
この頃は、彼自身も恋人と順調なようで、それらしい相談もない。
「そうか、おめでとう」
目の前に差し出されたお気に入りのカクテルを一口飲むと、翔生は言って微笑む。
「伝えとくな!」
親しいと言えど他人は他人。
そんな人間のことをも、自分のことのように喜ぶ日向。
翔生自身の最近の話をしたら、彼は同じように祝ってくれるだろうか。
別に、持ち上げられたいわけじゃない。
単純に、口に出してその事実を実感したいだけ。
ただ、聞いてほしいだけ。
何も言わなくていい。
「あのさ……__ 」
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