9.その後

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ぽつりと、翔憂は小さく声を掛けた。 *** 明岐が恋人のバイト先を訪ねるのは、今回で二度目だった。 一度目は、その恋人である日向とのわだかまりに嫌気が差して、早く解決したいと思って行動に出た。 全身を真っ黒の服装にしてさらにサングラスをかけて入店すれば、薄暗い店内はまるで明かりのない洞窟のように暗く、ほとんど見えなくて後悔したのが印象深い。 そして、自分を不審者でも見るかのような怪しむ目つきで見てきた日向の表情を思い出すと、何度でも笑えた。 「明岐、楽しそうだね」 喫茶店の扉を押す手前、後ろから凛がそう言って微笑む。 「アイツが面白くて」 「そうなの?」 "思い出し笑いは変態なんだぞ"と以前、日向が言った台詞が不意に頭によぎったので、明岐は適当なことを言って濁した。 どうだろうか。 今日は変装もしていないし、凛が同行している。 日向が気づかないわけが無いとは思うが、毎度のように目を輝かせて尻尾を激しく振り出したらと考えると頭が痛い。 普段通りなのはいい事だが、スマートに対応してくれたらきっと評判も上がるだろうに。 扉が開き、ドアベルが店内に来客を知らせる。
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