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1.
昼休みを告げるチャイムが、大学の構内に鳴り響く。
晴れている日は、バラバラと教室内にこもっていた生徒たちが中庭などに出向いてランチを楽しむけれど、今日のように厚い雲が空に立ち込めてどんよりとしている日は、さすがに出てくる人はいないようだった。
「はっ……っはぁ!」
凛は息を荒げて、このやたら広い大学の敷地内を懸命に走る。
この日は昼前に1コマ授業があったのにすっかり忘れていて、何とか間に合わせようとしたものの普段使っているバスに乗り遅れ、電車には置いていかれて結果、昼休みになってしまった。
時間がない中で少しでも、と整えたはずの髪は寝起きと変わらないボサボサの状態となり、建物内に入れば周囲の視線を独占してしまう始末。
最悪だ。
今日はついていないと、尽く実感する。
朝が弱いとはいえ、寝坊した自分に非があることは重々承知しているが、その原因が悲しすぎた。
昨夜セットしておいたはずの目覚まし時計は、無意識の自分の腕に振り払われ床に落ちて故障。
iPhoneのアラームも、スヌーズ機能をオフにしていたため一度液晶をスライドさせて沈黙。
そうして、凛はまた再び夢の中へ落ちていったのだ。
この大学に通い始めて4年。
もうじき卒業も控えているのに、我ながら情けない話だと思う。
「あ、凛!」
聞き慣れた呼び声に、疲れ果てて俯きながら歩いていた顔を上げる。
この長く直線に伸びる廊下の少し離れた場所に、よく見知った人物が二人いた。
自分を呼び、大きく手を振っているのは日向で、その横で小さく息を吐き安堵した表情を見せる明岐。
「遅れてごめん」
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