確信に近づく者

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 私は車を走らせ、A県B市へと向かった。B市は人口五万人くらいで、中途半端に発達した中心地こそあるが、商店街はシャッター通りと化している。中心地を少しでも離れると、水田か畑しか見当たらないような所か特徴の無い住宅街しか見当たらない。目玉となる観光資源がある訳でもない。 このまま衰退していく街だな。  悪いが、この程度の言葉しか出てこない。  メイン通りを歩いているのは、数人の高齢者だけだ。こんな街にも、ボクシングジムがあるのには驚いたけどな。  私は早速、そのボクシングジムへと向かった。成美がそこで青春を謳歌していた可能性は非常に高いだろ。  Cボクシングジム……。  木造造りの古い建物……。看板は汚れていて、元の色が分からないような状態だ。  練習生とかいるのか!  そんな雰囲気すら漂ってくる佇まいだが、ジムに近づくと、サンドバックを殴る音や、ミット打ちの音が、弾けるような感じの音を響かせている。  早速、ジムの中に入る。 「入門希望かい」  目つきこそ鋭いが、戦いに疲れた感じの中年男が私に声をかけてきた。  恐らく、ここの会長だろう。そんな感じだ。 「入門じゃない。私はこう言う者だ。成美について聞きたいことがある」  私は警察手帳を翳し、男にいきなり質問をぶつける。 「いつか来ると思っていたよ」  男は薄らと笑みを浮かべながら、呟くように答え、私をジムの中に案内し、椅子に座るよう促す。  私は椅子に座り、男と対面となり、話を始める。 「ここで成美はどんな感じだった。それと、友人を知っていたら、教えて欲しいな」  敢えて友人を訪ねる。友人の方が親よりも、詳しく当人の事を知っているなんて、良くあることだ。 「可愛い娘だったな。一生懸命、練習していたよ。友人は特にいなかったな。何時も妹さんと一緒だったから」  妹!  あの成美に妹がいたのか!  表情には出さなかったが、驚かずにはいられなかった。 「妹さんはどんな感じだった」 「いつも一緒だったよ。お姉ちゃんが大好きだったんだろうよ。いつの間にか、一緒に練習をしていたよ。二人ともセンスは抜群だったね」  男は笑みを浮かべながら、疲れたような声で答える。 「センスが抜群!二人とも強かった訳だ」 「そうだな。ただ、お姉ちゃんはキックの方が好きだったみたいだな。途中でキックに転向したよ。妹さんの方は、ボクシングを続けていたよ」 「妹の方が続けていたのか。今、何処に入るか知っていたら教えて欲しいな」 「妹さんの行方は分からない。どのくらい前かな?両親が行方不明になり、それから来なくなった。残念だったよ。練習を続けていれば、世界を狙える逸材だっただけに」  男は何処か、寂しそうに呟くような感じで話した。 「家が何処か知っていたら教えて欲しい」  男は静かに立ち上がり、奥の部屋に入り、古い書類の束から、成美姉妹が書いた入門届を私に渡してくれた。  私は男にお礼を言い、ジムを後にした。  成美はキックボクシングに転向し、その後、芸能界へ。 妹はボクシングを続けていたが、両親が行方不明になると同時に行方不明……。  ふに落ちない点ではあるが……。  世界を狙える逸材なら、人を殴打で殺すことは可能だよな。  一つの確信が生まれる。  人間をサンドバックに見立てる。  桜花の影響によるものじゃないのか。  桜花の影響を最も受けやすい環境下にある人物。  菊菜!  お前だよ!  行ってみるか。成美の生まれた家へ。両親が行方不明と言うのも、納得がいかない。
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