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動きだす者
私は雪乃 佳代。成美の自殺に付き合わされ、それ以後は、特に変わりのない退屈な日々が続いていた。しかし、事件はこっちの都合を考えずに、しっかりと起こってくれたよ。
車に乗り、事件現場へと向かう。
現場に到着した時には、既に多くの警察官で溢れていた。私は警察手帳を翳し、ロープを潜り現場へと足を運ぶ。
長い間、放置されていたのであろう倉庫を目の前にする。
使われなくなった倉庫……。
あり得ないだろ。成美は死んだ。
つまらない事を想像してしまう。倉庫で犯罪を行うのは、成美だけではないよな。私は、そう思い直し、倉庫の中へと入っていく。
倉庫の中には鎖で天井から吊られた女性の遺体があった。両足は地に付いているが、立っているだけで精一杯の状態にした吊り方だ。しかも、全裸にされ、膝より上は黒ずんだ紫色の痣だらけになっていた。
近づいて見てみると、身体の数か所から出血をしていた状態だ。酸化して固まって、黒くなっているけどな。
胸の辺りは、折れた肋骨が皮膚を突き破って、飛び出していた。痣の形状を良く見てみる。殴打によるものだ。しかも、殴る、蹴ると言った打撃によるものだ。サンドバックのように扱われて、殺されたようなものだな。
犯人は格闘家若しくは格闘技の経験者で間違いないだろう。打撃をこれだけ連打することは、素人では無理だ。訓練をした人間でないとな。
撲殺された女の遺体をじっと見つめる。倉庫の中を吹き抜ける生温かい風が頬を撫でるように流れると同時に、成美と対峙した時に感じた、あの嫌らしい狂気に満ちた香りを、感じずにはいられなかった。
どうして、ここにあの時の香りが!
あり得ない!
成美は私の目の前で死んだ!
私は自分に言い聞かせる。
少し冷静になって考えてみる。
面白そうだな。
笑みが毀れる。
何故、成美と同じ香りがするのか。
本気で挑んでみるか。鬼が出るか、蛇が出るか、楽しみだよ。
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