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何とも言えない虚しさの中、私は下着姿で吊られた状態で、ひたすら正面の鉄格子を見つめ続ける。
男が入ってくる。アルミのお盆にパンと水が乗っていた。男は部屋の隅にあるハンドルを動かす。金属とロープが擦れ合い、ギシギシと音が響き、私を吊っているロープは緩みだし、私はようやく座ることが許された。
男は私を睨み、食べろとジェスチャーをする。
私は睨み返しながらも、空腹に勝つことが出来なかった。これが、生への執着と言う物なのだろうか。パンを一気にジャリジャリとした乾き切った口の中に押し込み、水で腹の中に流し込んだ。
男は納得をしたかのように頷き、お盆を片付け、再び、私を吊った状態にしてから、いなくなった。
男は暇を見つけては、私を犯して喜んでいた。こんな状態で反撃をしても、返って手痛いお返しをされてしまうだけだ。
そんな諦め感が、汚らわしい異物を受け入れる理由として、正当化されるとは思わないけど……。
両足をしっかりと地につけて、両腕さえ使えれば……。
そんな事を想い続け、数日が過ぎたような気がする。
私はやっと地についている両足の所に、細い何かの金属片が落ちていることに気がついた。何故、今まで気がつかなかったのだろう。不思議に思ったが、恐怖感と緊張感に支配され、男の事ばかり考えていたから、本来なら見える物が見えなかっただけかもしれない。
男が食料を運び込み、ロープを緩めた時、男の目を盗み、その金属片を両手に隠し持つことに成功した。
食事が終わり、男は私を吊ればいなくなる。私は金属片でロープをひたすら擦り続ける。男が戻ってくる前にロープを切らなくてはいけない。
しつこく擦り続けていたら、金属片を握る右手に何かを断ち切ったような、確かな手応えを感じた。
両手首をゆっくりと広げるように動かす。ロープがゆっくりと私の両手首から離れて行く感触。私は数日ぶりに笑顔になることが出来た。
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