9cmでご容赦ください

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「あー、泣くなって……」 「泣いてへんッ!」 次から次へとあふれる涙は、ポロポロと頬を転がって床に落ちる。その様子を眺めながら悠生(はるき)は、ガシガシと頭を掻いた。 ──泣きたいんは、コッチやって。 そうして、再び息を吐く。 なにが悲しくて、好きなコがにマフラー編むの手伝わなアカンのや……! ひとつ年下の幼馴染(おさななじみ)結衣(ゆい)は、とにかく不器用。特に、裁縫(さいほう)系は絶望的で、これまで幾度(いくど)となく課題を手伝わされた経験がある。 しかも、幸か不幸か、手先がたいへん器用な悠生(はるき)は、結衣(ゆい)につき合って編み物をしているうちに、当人を差し置いて、目覚ましい成長を遂げていたのだった。 二本の棒針からは、それはそれは見事なアラン模様のマフラーが生み出されていた。隣に並ぶ“ペルシャ絨毯(じゅうたん)”とは大違いである。
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