61人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー、泣くなって……」
「泣いてへんッ!」
次から次へとあふれる涙は、ポロポロと頬を転がって床に落ちる。その様子を眺めながら悠生は、ガシガシと頭を掻いた。
──泣きたいんは、コッチやって。
そうして、再び息を吐く。
なにが悲しくて、好きなコがオレ以外の男にマフラー編むの手伝わなアカンのや……!
ひとつ年下の幼馴染の結衣は、とにかく不器用。特に、裁縫系は絶望的で、これまで幾度となく課題を手伝わされた経験がある。
しかも、幸か不幸か、手先がたいへん器用な悠生は、結衣につき合って編み物をしているうちに、当人を差し置いて、目覚ましい成長を遂げていたのだった。
二本の棒針からは、それはそれは見事なアラン模様のマフラーが生み出されていた。隣に並ぶ“ペルシャ絨毯”とは大違いである。
最初のコメントを投稿しよう!