9cmでご容赦ください

6/22
前へ
/22ページ
次へ
「バイトあるから、オレ、行くわ」 目頭を(こす)結衣(ゆい)から目を()らし、悠生(はるき)は逃げるように家庭科室を後にした。 このまま一緒にいたら、取り返しのつかないことを言ってしまいそうだ。 「もう家庭科室、閉めてええの?」 終わったん? と声をかけてきたのは家庭科部の部長の三井(みつい)。「編み物をしたい」と言う結衣(ゆい)のためにクラスメイトである彼女に場所を提供してもらったのだ。 幼馴染(おさななじみ)とはいえ、お互いの家でふたりきりで練習するのはさすがに気が引けるし、学年が違うため、どちらかの教室で、というわけにもいかないだろう。 「いや、まだ、もうひとりおるんやけど、オレ、バイト行かなアカンから……」 ふーん、となにか言いたげな彼女の眼差(まなざ)しに、ばつの悪さを感じつつ悠生(はるき)は廊下を歩き出す。 だが、すぐにくるりと向きやり、口を開いた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加