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 私は裕介の手を放り投げて水晶玉に向かった。 「ちょ、星羅さん?」 「黙ってて!」  かぶりつくようにしていびつな水晶に念を込める。これまでにない位ありったけを。  頭に思い浮かべるのはまだ存在しえぬ『佐々木星羅』という名前だ。なぜ今までこの可能性を考えなかったのか、もう占いは辞めると決めたんじゃないのか、そんなことはこの際もうどうでもいい。たとえわずかであっても裕介との未来に光が射すなら何でも良かった。何重にも巻かれたセロテープの奥、幾重にも走るヒビの影、返す返す水晶玉を見て光を探した。  だが、それらしき光は見つからない。やっぱり腹を括って自分で決断するしかない。  得も言われぬ不安感が私を襲う。水晶玉を壊すことで思惑通り占いからは解放された、しかし思えばそれは取り柄でも拠り所でもあった。私はもはや中身が空っぽのカワイイだけの人間である。彼が好意を寄せたのは昔のデキル私ではなかったか。今の私に何が出来ると言うのだろうか。 『そんなの、抱きついて『好き』って言えばいいんじゃないの?』  その時、誰かの声が聞こえた気がした。  裕介が不安そうに私の顔を覗き込む。 「なにか、見えましたか?」 「ええ、結果が出ました」 「それで、どうなんでしょうか。早く教えてください」 「よいでしょう」  言うが早いか、私は裕介の首筋に飛びついた。彼は尻もちをつき、私はそれに覆いかぶさるような形になると、私は彼の耳元で「好き」言った。  それ以降の会話は無かった。お互いの口はお互いの口で塞がれていた。  こんな乱暴な選択で本当に幸せを掴めるかと考えれば甚だ疑問だ。上手くいかなかったらリサに文句を言いに行く所存である、しかし彼女とて占い師ではないし、すでに未来は私次第で自由に変わる。ただ、もはや私に迷いは無かった。  飛びついた時に机の上の水晶玉が床に落ちた。再び粉々になって散らばると、一足遅れで光を放った。  それは星屑みたいに綺麗で眩い光だった。(終わり)
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