2人が本棚に入れています
本棚に追加
3
リサに背中を押されてからというもの、独り身の寂しさに苛まれることが少なくなった。少なくはなったが、代わりに考える時間が多くなった。ほとんど諦めかけていた「裕介に告白する」という選択肢が浮上したためである。
脳内会議は混迷を極めた。「占い結果を自ら反故にするのは占い師としていかがなものか」、「悪運の中に活路を見出すのも占い師である」、「やっぱり改名してみよう」という占術的観点からの対立があり、また別の所では「私のカワイさなら成功して当然よ」、「告白なんてしたことないわ」、「きっと変な人としか思われてないからよしなさい」、という女性的観点の対立があり、クリスマスが近づくにつれて増えていくカップルたちにも焚きつけられて、もはや収拾不可能かと思われた。それでも考え抜いた末に告白すると覚悟を決めた頃には、もう次の金曜日がやって来ていた。
「星羅さん、こんばんは」
そして裕介もやって来た。
まずは仕事運の占いである。私は水晶玉に手をかざしウニャムニャ唱えて、結果をつらつらと述べ始めた。
平静を装って語り続ける、しかしその裏で心拍数は右肩上がりで上昇していた。占いが終わったら告白すると、そう心に決めていた。頭の中で「好きです、付き合ってください」と反芻する。本番で噛まないように、日和らないように、流れ星に願うようにして、何度も何度も練習した。
長いような短い時間の末、ついに全ての言葉を発し終えた。
「ありがとうございます。これで来週も安心です」
そう言って裕介が頭を下げる、その隙をついて深呼吸した。そして再び顔を上げた瞬間を見計らい、私は意を決し口を開いた。
「あのっ……!」
それは裕介の声だった。渾身の第一声はタッチの差で裕介により阻まれて、私は口を開いただけに終わった。
出鼻をくじかれたのはびっくりしたが、私はすぐに何食わぬ顔して「どうしたの」と次の言葉を促した。けれど裕介はどこか言いづらそうにしてなかなか先を言ってくれない。
どうもいつもと様子がおかしい。ハンカチで汗を拭きながら震える姿は緊張しているみたいである。ひょっとして向こうから……、などと思い至ると心が躍った。
そしてようやく裕介は口を開いた。
「今日は、恋愛運も占ってもらいたいんです!」
彼はひと際大きな声でそう言うと、後は勢い任せで矢継ぎ早に話し出した。
「実はニ、三年ほど前から好きだった人がいるんです。僕は今度の週末にその人に告白しようかと考えています。だからそれが成功するかどうか、星羅さんに占ってほしいんです!」
頼んでもいないのに彼はペラペラとその思い人のことを語り始めた。その人にはいつも仕事のことでお世話になっていること、関係が崩れるのが怖くてずっと事務的な話しか出来なかったこと、頼りがいがある一方で個性的な面もあってそこが可愛いということ、その他諸々。
私は相槌を打ってそれを聞いた。そして言われた通りに占って、いつ告白しても大丈夫だと太鼓判を押すと、彼は「来週の金曜にもう一度ココへ寄ってから告白します」と宣言して去っていった。
私はそれを見送った、ような気がするのだが、正直な所はっきりとは覚えていなかった。
裕介の話の途中から私の頭は真っ白だった。
最初のコメントを投稿しよう!