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私は慌てて涙を拭った。
「ちょっと、冗談やめてよ。びっくりしたじゃない」
「いえ、本気です」
「じゃあ何、予行演習ってこと? だったら、十分キマってたから、さっさと行ってきなさいよ」
「いえ、本番です」
「何言ってんの。二、三年前からお世話になってる人なんでしょ? お仕事のことでお世話になった人なんでしょ? あと、可愛くて頼りがいがある人で……」
と、言ってるそばから一人の顔が頭に浮かんだ。
「ホントに、私?」
裕介は照れくさそうに頷いた。
顔が徐々に火照るのが感じられた。彼の言葉が嘘でないのは目を見れば分かる。分かるが、あきれてものも言えやしない。裕介のヤツは告白する本人に恋愛運を占わせて、私はそれに気づかずに一週間ずっと悩み続ける羽目になったのだから。
正直嬉しい、でもおいそれと了承するわけにはいかなかった。恋愛運が悪いと言うことは、たとえ付き合うに至ったところでケンカ別れする可能性が高いということである。保護した鳥を名残惜しみつつ野生に送り出すような気分で私はもう一度背中を押した。
「ありがとね。でも、気持ちだけ頂いておくわ」
「どうしてですか? 僕の恋愛運は最高だって言ってたじゃないですか。至らないところがあれば言ってください、何でもしますから」
「あなたは良くても、私の方が悪いのよ」
私はもう一度裕介の手を包み込んだ。
「恋愛運の良いあなたには近いうちに新しい出会いがあるはずよ。その人は、まあ私ほどではないかもだけど、きっと素敵な人に違いないわ。だからその人にちゃんと告白して、良いお付き合いをして、ゆくゆくは結婚して幸せな家庭を……」
ん? 結婚……?
脳天に電撃が落ちたような衝撃が走った。
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