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 とある駅からほど近くのショッピングセンターの一階、エスカレーター脇の自動販売機の傍らに、パーテーションにて区切られた小さな四角いお店がある。そのお店は奇妙な植物や宝石で覆われていて、辺りにかぐわしい香りをまき散らしている。お香でも焚いているのかと中を覗いてみたところで紫色の天蓋が暗い闇を落とすので何をやっているのかよく分からない。親子連れで賑わうショッピングセンターにはとても似つかわしくない、こんな怪しげな店を開いているのは一体全体どこの誰か。  私である。 『叶星羅の占い店』は知る人ぞ知るお店である。規模は小さく立地も良いとは言えないけれど、確かな占い技術とカワイイ容姿のおかげもあって、もうすぐ三年が経とうとしていた。というか、三年経たずに廃業するなんてありえない。これまでの人生も数多の苦難を占いの力で切り開いてきたのは事実だし、お店の経営もその占いに従い決めている。独特な外装だって幸運が訪れることを重視した結果なのだ。ただし呼び込むのは運気だけであるらしく、客足があまり芳しくはないのはご愛敬だ。  でも決してゼロではなかった。 「こんばんは。今日もお願いしてもいいですか?」 「よいですよ。さ、どうぞ」  彼の名は佐々木裕介といい、金曜夜の同じ時間に決まって姿を現した。歳は私の方が二つ上であるはずなのに、ピシッとスーツを着込んだ姿や立ち振る舞いは私よりも大人っぽい。この店唯一の常連だった。  いつものように来週の仕事運を所望すると、私もいつものように占った。  私は水晶占いを得意とする。小学生の頃におねだりして買ってもらったガラス製の水晶玉、対象の人物の名前を思いながら私がコレに念を送ると、私にだけ見える光を放ちだす。その光の色、強さを見ることでその人の運勢が判別できるというわけである。今回は青い爽やかな優しい光だ、真面目に頑張れば無事に過ごせるというサインである。  ニ、三具体的なアドバイスを加えると、裕介は頭を下げた。 「今日もありがとうございました。おかげで来週も乗り切れそうです」 「何かあったらまた来なさい。でも、何もなくても来てもいいわよ」  彼は笑って去っていった。  再びぽつんと一人になると、私の胸に堪えがたい孤独感が去来した。それが一体何を意味するかは問うまでも無い。裕介は創業当初からのお得意様だが、これ程までに大切な存在になったのはいつからだろう。  しかし私は「好き」と打ち明けることが出来ないでいた。  以前、自分で自分の恋愛運を占ったのだ。  目も当てられないほど最悪だった。
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