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「ダメだよう。優也は見逃すとか、やらないとかも覚えなきゃ。何でも気になったらきちんと処理しようとするでしょ? 疲れちゃうよ」
美香子が俺にした数少ない説教だ。
当時は聞く気がなかった。
全てきちんと処理して、清々としていたかったのだ。
だが今思えば、清々としたことなどなかった。
常に次がくるのだ。
最後に全て終わった気がしたのはいつのことだろう。
小学生くらいまで遡らなければダメな気がする。
夏休みの宿題とかを終わらせた時の爽快感だ。
後ろからあおってくる車に急ブレーキをかけて逆に突っ込もうとしている間、なぜかそんなことを考えていた。
そんな時間があるんだ、と思った。
これで俺は死ぬ。
あおり運転手は困ったことになるだろう。
新聞にのるかもしれない。
何と言ってもここは美香子の住む街だ。
彼女も当然、知るだろう。
また悲しませてしまうかな。
うん?
彼女の片目から一筋の涙が落ちたのを思い出した。
美香子は、俺を何よりも理解していた彼女は、もう悲しんでいる。
何故だ?
どうしてもう悲しんでいるんだ。
急に気がついた。
彼女はわかっていたんだ。
もちろん美香子はエスパーなんかじゃない。
俺の性格と状況からいきなり現れて、しかも声すらかけない。
そんな色々なことから俺が死のうとしていると気がついたのだろう。
では、何故止めない?
止まらないと知っているからだ。
止めようとしたら逆になんとしてでも実行しようとする俺だからだ。
だから涙を見せた。
けれども最終的に諦められない彼女は、俺の携帯電話に何度もかけているだろう。
ちなみに俺の携帯は家の仏壇に置いてきた。
それですべてがわかるだろうと思ってのことだ。
静かな仏壇の上で、なんども振動している携帯を想像して少し笑えた。
気がついたら座席から上にジャンプしていた。
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