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恋人でなくなっても、美香子は美香子だった。
嫌いになったわけじゃない。
自分が彼女に値しない人間だと気付いたから別れたのだ。
未練たらしい俺は、ついつい連絡をとったりしてしまった。
それでも彼女は優しかった。
一緒に釣りに行ったりもした。
映画を見たりもした。
恋人じゃないけれど、友達でもない。
でも一緒にいると落ち着く。
結局、まだ頼っていたのだろう。
「私と一緒にいた方がいいと思うのになあ」
一緒に過ごした日の別れ際、彼女はいつも俺にそう言った。
そして彼女の転勤が決まった。県を5つも6つもまたいだ場所だった。
彼女が異動の希望を出していたのかは知らない。
「自分を焼き尽くさないでね」
最後に聞いた言葉だ。
俺は爆弾か何かに見えていたのだろうか。
歩く火災の俺は狼狽した。
別れていても美香子のことが大好きだったからだ。
彼女はどう思っていたのだろう。
美香子が近くにいない毎日が始まり、新しい彼女ができたり、別れたりした。彼女とはたまに連絡をとった。
数ヶ月に一度くらい。
彼女は幸せに暮らしているようだった。
その頃だったろうか。
何か色々と深く考えるようになった。
出来事の先々を想像するようになり、いつも何かに怒ったり、不安に思ったりしていた。
そして怒りは消え、不安だけが残り、恐怖が増大した。
気付いた時、仕事が全く進まなくなり、周囲がヒソヒソと内緒話を始めた頃、上司に医者に行くように言われた。
その結果が現在だ。
精神的に問題のある無職。
人生をスムーズに乗り切ってきた俺には辛いことだ。
美香子にも伝えた。
彼女には恥ずかしい感情などを感じずに思うがままに言えた。
「ごめんね。変な意味じゃないけど、驚かない。逆に心配していた通りになったって感じ」
彼女は何でもお見通し。
そして自分は今まで通り、何も変わらないことを約束してくれた。
病気だからって避けたりしないからと。
何かあったら連絡してねと言ってくれた。
しかし、何でもお見通しの彼女にも知らないことがあった。
俺はSNSで彼女に新しい恋人ができたことを知っていたのだ。
彼女はそれを俺に告げなかった。
当然だと思う。
変な病気になったって知らせを受けながら、新しい彼氏が出来ましたって言う女性じゃない。
俺は不幸になり、彼女は新しい幸せを掴む。
正直に言うと、最初は妬んだ。
けれど、すぐに消えた。
それはきっと美香子と一緒にいた時間のせいかもしれない。
自分のことしか考えない俺と、いつも俺のことをかんがえてくれる彼女。
少しは見習えたのかもしれない。
彼女には幸せになってほしいと願った。
できれば、自分も、とその頃は思えた。
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