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無職の俺は暇人だった。
俺の祖父は大工だったので家から少し離れたところに仕事場がある。
もう祖父は他界しているので誰も使っていない。
つまり荒れ放題だ。
遊んでいる身だったので、片付けに行った。
その時だった。
ホコリにまみれた銀色のシートにくるまれたそのバイクを発見したのは。
そのバイク、ホンダのスティードは俺のものだ。
19の頃に手に入れて、ずっと乗っていたのだが、車に乗り始めてからはあまり乗らなくなり放置していた。
何故か、その日から俺はそのバイクを修理し始めた。
何かをしたかったのだろう。
何でもいいから没頭したかったのかもしれない。
元々、古いものな上に数年間、放置されている。
部品を探すのも一苦労だ。
分解し、ダメなものは取り替える。
もう大丈夫だと思って組み立てても、やはりダメでまた分解する。
それを幾度となく繰り返し、やっとまともに走るようになった。
近所のバイク屋に持っていき車検を取ってもらう。
そしてそれは公道を走れるようになった。
そのあたりだろうか。
俺には一つの考えが浮かんでいた。
明確とは言えないが、とにかくビジョンがあった。
それはバイクを手に入れたからなのか、そのビジョンがあったからバイクを直したのか、それはわからない。
だけれども、それまで向かう先の見つからなかった俺に、ある道が見えたのは確かだった。
少年野球には、段々と行かなくなった。
無職なのが恥ずかしかったからだ。
父兄の手前もあるし、子供達に何の仕事をしているのか聞かれるのがこたえた。
病気は治ると思えば、復活する。
薬は増え、出来ることが少しづつ減っていった。
俺は確実に人生を無駄にしている。
頭をカチ割って、修理したいと何度も思った。
理由がわからない病気は理由がわからなく治るかもしれないとも思い、色々と試してみた。
瞑想したり、死にそうになるまで走り続けたり、一日中、海を眺めたりした。
結果から言えば効果は感じなかった。
あったのかもしれないが、俺にはわからない。
そしてほとんど諦めにちかい境地にたどり着いた。
受け入れるしかないと。
「自分を焼き尽くさないでね」
美香子の言葉をまた思い出す。
俺は自分の内面から自分を壊してしまったのだろう。
彼女は俺の危うさに気付いていたのだ。
俺は大抵のことはうまくできた。
だから他人にも求めた。
当然、それに応じられなかった場合は怒りもする。
それが自分に向かった場合どうなるのだろう。
原因がそれとは限らないが、俺は美香子の言葉を全面的に信じた。
何故だかわからないが、彼女は俺のことなら何でもわかるんじゃないかっていう幻想に近いものを感じていたのだ。
幻想なのか、頭がおかしくなったのか。
多分、両方だろう。
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