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病気はほとんどよくならず、時間だけが過ぎていった。 周りの世界は動いているが、俺の世界は止まったまま。 けれども、俺の世界はいびつながら動き出した。 バイクのエンジンをかけ、振動を感じ走り出す。 県をいくつも超えて、ある場所へと向かっている。 夏の終わり、まだ暑さが残る頃、俺は美香子の住む街へ向かった。 彼女の住所は知っていた。 何度か贈り物をしたからだ。 といってもプレゼントとかではない。 旬の食べ物とかそんな類だ。 だが家に行く気は無かった。 彼女は受付をしている。 職場に行って客を装えばいい。 ストーカーっぽいかと思ったが、忘れることにした。 一目、見れればよかった。 電話やメッセージ越しではない、本物の美香子を見たかった。 ただその存在を視覚で感じてみたかった。 それですべてが解決するような気すらしていた。 これらが俺が高速移動している間に頭の中を占めていたものだ。 運転に集中しろよ、と自分にツッコミをいれておいた。 高速を降り、一旦、コンビニで休憩する。 何時間走ったのだろう。 まったく気にならなかった。 今の俺に始まりも終わりもない。 後は美香子の働く支店に行き、遠目でもいいので彼女を見るだけだ。 気付かれない方がいいと思った。 同時に気付いて欲しいとも思った。 嬉しがるかもと思った。 迷惑がるかもと思った。 そして最後に思ったことは、自分は馬鹿野郎だってことだった。 やはりやめようかとも思ったが、止まらない。 と言うより、俺と言う男はここで止められる人間ではないのだ。 ふと気付く。 ただ旧知の人間に会うだけなのに、何がそんな一大事なのだろうと。 たしかに元彼女だが、別に喧嘩別れしたわけじゃない。 頻繁ではないが普通に連絡もとっていた。 今日だってそうだ。 あらかじめ伝えておけば、お茶くらいはしてくれただろうに。 でも、そうじゃなかった。 俺はただ俺自身の願いで彼女を見たかったのだ。 自分が出会ってきた女性、いや違う。 出会ってきた人間のなかで最も自分を理解してくれる存在を、ただ見たかった。 会いたいわけじゃない。 見たかった。 このあたりの心情は我ながらよくわからない。 まあよくわからない病気になっている俺だ。 よくわからなくて当然だろう。 見上げれば看板が見える。 自分がかつて所属していた場所の名前が刻まれている。 そして、そこに記されている場所が俺の目的地だった。
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