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自動ドアの手前で、また躊躇した。 美香子は昔と違って見えるだろうか? 空気が背中を押すようにして、店舗に入っていく。 受付に何人か女性がいるが、肝心の美香子の姿はそこにはなかった。 こんなもんだろう。 覚悟を決めて入ってみれば、目当てはいない。 時計を見ると正午過ぎだった。 ずっと時間を気にしない生活をしてきたせいで、食事の時間感覚がおかしくなっていた。 普通に働いている人は昼食の時間だ。 行き交う人々を眺める。 皆、充実した顔をしている。 午前中の仕事を終え、後は半日。 俺は何も終わらせていない。 店舗を出て、適当に歩いていると、芝生の綺麗な公園があった。 何人かのOLや学生が、ベンチに座り昼食を食べていた。 笑い声があちらこちらから聞こえてくる。 今、現在、仕事をしていない俺には、とても眩しい光景だった。 ただ生きているだけの俺にはない時間だ。 食事をするだけで、どこか罪悪感すら感じるのだ。 社会に生きていないと言うのは、想像以上につらいものである。 空いているベンチに座り、ただ下を見ていた。 すると何か感じた。 言葉にしろと言われれば、出来ないと答えるしかない感覚。 それを感じた方を見ると、美香子がいた。 3人ほどで笑いながら弁当箱をバックにしまっていた。 髪型が少し変わっていたが、柔和な感じは変わらず、ずっと想像していた美香子とほとんど変わらなかった。 弁当箱なのが、彼女らしいと思った。 きっと自分で作っているのだろう。 あまり料理が上手ではないと常に言っていたが、そんなことはなかった。 人並み以上だったと思う。 俺もよく彼女に作ってもらっていたものだ。 ちなみに俺の味覚はあてにならない。 ほとんどのものがおいしいという得な味覚をしている。 美香子はやはり美香子のままだと思った。 距離はほんの10メートルほど。 俺は下を向いていたので、彼女は気付いていないだろう。 俺は反射的に立ち上がりかけたが、何とか止めることができた。 ここで何をすればいい? 「やあ、美香子。久しぶり」 そう言えばいいのか? そんな訳はない。 それに俺の目的は違うのだ。 何をしにきたのか? 彼女を一目見たかった。 実はもう一つ目的がある。 明確な目的が。 それは殺人者になることだった。
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