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知らない公園で元彼女を盗み見る。
そんな行為を世の中ではストーカーと呼ぶ。
そう言われても仕方ないが、俺は自分に違うと言い聞かせてみた。
無駄だった。
しかしそうにしても、自制心のあるストーカーだ。
それは間違いない。
またビリっとした感覚がした。
そっと美香子の方を見てみると、何とこっちを見ている。
やはり彼女には何かあるのだろう。
俺は下を向くのをやめた。
彼女の方に顔を向ける。
目があった。
彼女は一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに普通の顔に戻った。
笑顔ではない。
普通の顔だ。
そして、何故だかわからないが、片方の目から一筋の涙を流した。
彼女はすぐにそれを手で拭う。
距離があってもその涙の粒が見えた。
もしかするとそんな気がしたのかもしれないし、幻覚かもしれない。
でも、彼女は片目から涙を流した。
俺を見て、俺を認識して、涙を流した。
そして最後に少しだけ、割合で言えば3割くらいの微笑み、それもどちらかというと寂しさの混じった微笑を俺に向けた。
意味がわからなかった。
驚くとは思っていた。
もしかすると迷惑がられるとも思っていた。
だから気がつかないようにしようと思っていた訳だ。
片目からの涙と悲しげな微笑。
それが久しぶりに再会した美香子の反応だった。
俺が止まっていると、何も気付いていない仲間に促されて、美香子はそこを去っていった。
休憩時間は終わりなのだろう。
俺は追わなかった。
SNSなどから得た情報によると、彼女は現在、確実に幸せに暮らしている。だから俺の予想していた彼女の反応とは違かった。
意味を知りたいとも思ったが、諦めた。
俺には何もわからない。
今の俺にはすべてが謎と不安だ。
後は最終目的を果たすだけだった。
それで俺の人生は文字通り完全に終わる。
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