1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

公園を出て、俺はバイクにまたがった。 道はネットで調べて、頭に入っている。 美香子の住所も知っているし、働いている場所も知っている。 多分、通勤路もわかる。 だからってどうと言うこともないが。 俺は夕方になるまで、何度も同じ道を走り続けた。 機会を探し続けた。 俺の求める機会はなかなか見つからない。 そこでふと気がついた。 こう言うわけのわからない病気になってから、困った症状がある。 まず物を捨てられない。 何か自分の痕跡が残っていそうで、それがやたらと恐ろしいからだ。 後もう一つ。 落ちているものが何か気になる。 これは捨てられないのとつながっているのかもしれない。 自分が落としたものなのか気になってしまう。 そういう迷惑な、生きていく上でかなりストレスになる症状が、この旅にでで からは全くなかった。 俺はここに人生を捨てにきた。 だからなのかもしれない。 つまり、俺は人生を壊すのが怖かったのか、と気付いた。 何かしら落としたり、捨てたりしたものから自分の人生に不利益をもたらす事が起きるのが怖かったのだろう。 理論的に語れる話ではない。 おかしくなった脳の働きによるものだ。 とっくに壊れた人生を必死で守ろうと足掻いていたと言う訳だ。 自らそれを捨てようとした時、症状が消えるのは皮肉としか言いようがないが、必然だと思った。 自棄になったら、病気が良くなる。 自分を弱い人間だと思った。 意志の力で治せないのだ。 だからどうしたとも思った。 どうせ、あと少しだ。 あと少しで俺は人を殺す。 それで全て終了。 俺は快調にバイクを走らせ、機会を待っていた。 時間だけが過ぎ、あたりはすっかりと闇に溶け込んだ。 俺の走っていた道は田舎道で、カーブも多い。 見通しがあまり良くないがアクセルは緩めない。 運が良ければ、この日の夜、俺の理想とする状況が現れる。 それまでは気持ちよく走り続ければいい。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加