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8
白い軽自動車が走っていた。
すぐ後ろに黒のSUV。
軽の方は地味な感じで、SUVは派手にたくさんのパーツをつけている。
執拗に白を黒が追いかけていた。
おお、と思った。
今流行りのあおり運転ってやつだ。
対向車線を走っていた俺は、すぐにUターンし、2台を追いかける。
後ろからしばらく見ていたが、確実にあおり運転だった。
考えていた計画に変更が必要かもしれない。
変更というより改善だぜ、と思った。
俺がここにいる目的。
それは自分を殺すことだった。
俺も一応、人間なので殺人には違いない。
理想は大型トラックだった。
見通しの悪いカーブで対向車線に突っ込む。
トラックは大丈夫だが、俺はぐちゃぐちゃになるだろう。
自殺じゃなく事故死。
運転手には迷惑な話だが、もう何も構わない俺はそんなこと考えなかった。 勝手に1人で死ねばいいのだが、性格が悪いのか派手に死のうと思っていた。
しかも美香子の住む街で。
最低なやつだ。
でもそれを思いついた時から、その考えが捨てられなかった。
強迫観念ってやつだ。
それしかないと思ってしまった。
きっと病気のせいなんだろう。
やめよう、死ぬなら他人に迷惑をかけずにやろう、と何度思っても考えは戻ってしまう。
何故か、そうすることしかないと思い込んでいた。
そして、今。 目の前で悪名高いあおり運転が行われている。
ここだ、と思った。
他人に迷惑をかけて死のうと思っている俺が、他人に迷惑をかけている人間に迷惑をかけてやる。
ふざけ半分なのだろうが、その結果はどうなるのか。
思い知るがいい。
俺はバイクを加速させ強引に白と黒の間に割り込んだ。
黒が窓を開き、俺に罵声を浴びせた。
そして少し走っていると白は道の左に停まった。 黒はそのまま俺を追いかけ
てくる。
標的は完全に変わったようだ。
俺がさらに加速するので、後ろからあおるには黒も加速せざるを得ない。
猛スピードで走るバイクと車。
さあ、行くぞ。
俺は全ブレーキを一気にかけた。
後輪が浮いた気がした。
その一瞬、俺は冷笑ともに後ろを振り返った。
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