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どうも、神です。
とはいえ君達の想像するような神ではありません。
ひげもじゃもじゃのお爺さんや、なんか凄みのある仙人みたいなのとか、そういう感じではありません。
全知全能でも万能でもありません。
あまり大した事は出来ません。
でも君達を助ける事は出来ます。
だから君達にとっての救いの神ではあるけれど、実際のところは意志の——感情のエネルギーの塊とでも言えばいいのでしょうか。
しかしそういうのも野暮なのでここでは神と自称させて頂きます。
いや、本当にですね。なんとかしちゃおうかな。という気分になりました。
今、神のモチベーションは最高潮です。まあそれも当然ですね。神は君達自身でもあるのですから
これは君達にとっては知覚不可能な領域の話だけれども、一応順を追って説明しましょう。
神が発生したのは、君達が何度もこの時間軸に来ているからなのです。
この時空間を繰り返す度に、君達の意志は——感情のエネルギーは、ここに蓄積され、高まりました。
そんな事が起こり得るのか? と思うかもしれませんが、起こり得るのです。
何故なら、人間の意志には力があるからです。
わかりやすい例を挙げれば、言霊がそれに当たります。
発した言葉が霊的な力を獲得して現実化する事象。
これは何も不思議な事ではありません。
蝶の羽ばたきが遠く離れた場所で竜巻を起こすのと同じです。
願う。というただそれだけの行為ですら僅かな力が生じます。蝶の羽ばたきよりも小さな力ですが、それが現実は形を変える事が出来るのです。
彼が過去を変えたいと強く願い、時間を逆行する力を得たように。
彼女が過去を変えたいと強く願い、意識体となり連続する時間から離脱したように。
願いは実現します。
それだけの力があるのです。
その力が同じ時空間に何度も何度も蓄積し、地層に如く積み重なっていけば……当然ながらそれは大きな力になって然るべきなのです。
神はそうやって発生したというわけなのです。
しかし、それでは何故彼らは失敗し続けるのでしょうか?
神が発生する程の力が働いているのに、何故?
お答えしましょう。
これは単にエネルギーを向ける方向性の問題なのです。
やり方が間違っていたのです。
彼は彼女しか見ていません。
彼女も彼しか見ていません。
自分達が何かをすれば全てが変わると思っています。
それが間違いなのです。
視野を広げましょう。
事故の原因は自動車事故です。
それを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?
彼女を遠ざける?
ノーです。彼女が離れる距離にも限界があります。そもそも事故が発生するという事態はなくなりません。
彼女の盾になる?
ノーです。その程度では事故のエネルギーを無効化するなど不可能です。
彼も彼女も、どこかの時点でそれを無意識的に察していました。
ですがこの局面で他に取り得る有効的な手段を見つける事が出来ず、袋小路にいると思い込んでいます。
一方で、この場面を繰り返しているだけの彼よりも、より広い視野を持つ神には答えがわかります。
この場合は、事故を発生させない事こそが重要なのです。
君達はどうすればこの事故を回避出来るのか? という事に集中しすぎています。
だから神は別のアプローチを試みます。
俯瞰した広い視野で以て観測——事故発生から逆算し、事故に関係する人間全員に干渉し、遅延行動を取らせます。その人物の心の奥底から、その人物の大切な者の顔を浮かび上がらせ、心にゆとりをもたらします。
意識体となった彼女ですら自分にしか干渉出来ませんが、神であれば他者への干渉も可能なのです。
そのようにするとあら不思議!
思いやりの心を意識するようになった人々は安全運転を行い、事故は起こらなくなるのです。
おめでとう。これで君達は助かりました。
これにより、この場に蓄積されたエネルギーは役割を失い霧散します。
彼の時間逆行能力は消失し、彼女の意識体も程なく解脱します。
君達はこれまでの繰り返しに関する記憶を全て失います。これは宇宙がそうやって整合性を取っているからです。このような現象は頻繁に起きています。
代わり映えのない日常の大半は、実は劇的な変化による結果であることが多いのです。
人には世界を変える力がある。それを人が知らないのは、幸福なのか不幸なのか——所詮は二人の人間から発生したに過ぎない存在にはわかりませんが、終わりよければ全て良しと言ってもいいのではないでしょうか。
この後、抱き合っている君達は何故泣いているのかわからずに困惑して、そして「なんだろう。不思議だね」などと言いあって笑って、手を繋いで一緒に歩きはじめます。
その先にあるのは、新しい世界です。
役目を失った神はそれを見届けて消滅します。
それでは、末永くお幸せに。
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