第1章 父の再婚

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「祥子さんて、友達?今まで、そんな人いなかったじゃん」 「…ふふ…。そうね。でも、今となっては今の私の気持ちを、一番理解してくれてる人なのかも。違う出会い方をしていたら、親友になれたかもしれないわ。お父さんが、唯一愛した人。悔しいけど、私はお父さんに愛されなかったの。利用されただけだって分かってる。それでもいつかは…振り向いてくれると思ったのよ」 母さんはそう言いながら、涙が溢れてきて頬に一筋流れ落ちた。 どういう意味なんだろう。 父さんは、母さんを愛さなかった?結婚したのに? その祥子さんて人がいるから、離婚したのか?なのに、その人に何故頼らなきゃいけないんだよ。 何も知らなかった当時の俺は、祥子さんに対して、嫌悪感しかなかった。憎しみに近い感情があった。母さんがかわいそうだったから。愛されなかった。愛されたかった。何度も、そう嘆いて泣いていたから。 母さんが亡くなった時。 病院に駆けつけてくれたのは、母さんの両親と、祥子さんだった。母さんの亡骸にしがみついて、声を殺して泣いてしまった俺の肩を、そっと手を添えて、とんとんと優しく叩いてくれた。 やめろよ。 あんたのせいで、母さんが幸せになることはなかった。せいせいしたか?母さんをこんな目にあわせて、満足かよ…。笑いにきたのかよ。 そう思ったものの、声には出せなかった。だけど、背中に添えられた手がとても温かくて、いろんな思いが混ざり合い、恨み辛みの言葉など、一言も発することなく、俺は声を殺して泣いていた。
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