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「おい、手と服もくれよ」
少年はキョロキョロと辺りを見回すが、誰もいない。聞こえるのは家の中から聞こえてくる掃除機の音のみである。一体誰が喋ったのだろうと思い首を傾げた。
「おい、裸じゃ恥ずかしいじゃないか。早く腹にボタンつけてくれよ」
声の主は少年の目の前にいた。何と、雪だるまが少年に向かって話しかけているのである。
少年は驚き、後ずさり、なんとも珍妙な悲鳴を上げながら尻もちをついてしまった。
「ののわっ!」
「何だよ…… 変な悲鳴上げやがって」
少年は慌てて家の中に入り、掃除機をかける母親に縋り付くようにしがみついた。
「お、お、お、お母さん! 雪だるまが喋った!」
母親は首を傾げながら掃除機の電源を止め少年の言葉に耳を傾ける。
「寒さで耳が痛すぎてどうかしたんじゃないの?」
「本当なんだよ! 雪だるまが喋ったんだよ!」
少年は母親の手を引いて雪だるまの前へと連れて行った。そして、少年は雪だるまに語りかける。
「おい! さっきみたいに喋ってみろよ!」
「……」
しかし、雪だるまは沈黙を守った。母親はふふふと冷笑を浮かべながら家に入り、掃除へと戻っていった。母親が再び掃除を始めることを知らせる掃除機の音が鳴り始めたところで、再び雪だるまは冷たい枯れ木の口を開いた。
「服はどうしたんだ? 裸では恥ずかしいではないか」
全身雪まみれそのものどころか、雪そのもののお前が何を言っているんだ。少年は怪訝な顔をしながら雪だるまの顔を眺めた。再び母親を呼ぼうとした少年を雪だるまは止めた。
「待て! いいから早く服着せてくれよ!」
「ふ、服って言われても」
球体二つの体に着せる服なんてあるわけがない。それを想定している服があるはずもない。
何を無茶言っているんだと少年は雪だるまに対して腹を立てた。
「胸に目と同じ石ころを二つか三つ付けてくれるだけでいい。それだけで雪だるまに服を着せた気になるんだろ? お前ら人間は」
少年は言われるがままに石ころを三つ集めて下玉に三つ並べて押し込んだ。見た目だけならボタンに見えないこともない。
「よし、やっと裸じゃなくなった。これで恥ずかしくないぞ」
雪玉寒々わがままボディのくせに何を言っているんだこいつは。少年は馬鹿にしたような目で雪だるまを見つめる。
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