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夕方になり、仕事を終えた少年の父親が帰ってきた。炬燵から亀のように頭だけを出していた少年に対して優しく語りかける。
「玄関の前に雪だるまが作ってあったが、お前が作ったのか?」
「うん、家の掃除で外に出されて暇だったから作ったんだよ」
「あれ、出来はいいな」
「聞いてよ、お父さん。あの雪だるま、喋るんだよ」
「そうかそうか。顔までしっかり作ってあったからな。喋ってもおかしくないな」と、父親は言うがその顔は含み笑顔で信じている体ではなかった。少年の頭をいいこいいこと撫でる。
「本当に喋ったんだよ! お父さんには喋ってくれなかったの?」
「うーん、お父さんには聞こえなかったな」
大人は僕のことを信じてくれない。少年はぷくーっと河豚のように頬を膨らませて不快感を露わにした。
母親が台所にて夕食の準備を進めていた。鼻腔に入る濃い乳製品の香り、今日のメニューはクリームシチューである。
父親はクリームシチューをスプーンで漁るが、あるものが無いことに気がついた。
「おい、人参が入ってないじゃないか」
「この子が雪だるまの鼻で使っちゃったのでありませんよ! 全くこの子ったら……」
少年はクリームシチューは好きだが、人参は嫌いである。人参が無い分、肉とじゃがいもを多めに入れてとろみが増したクリームシチューをいつもより美味しいと感じていた。
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