スノーマフラー

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 翌日の天気も雪だった。少年が目覚めると、外は相変わらずの雪景色。寒さに身を震わせながらリビングに降りると、両親は年賀状の印刷を行っていた。炬燵の上にはパソコンとプリンターが乗っており、プリンターはじーこじーこと音を出しながら年賀状の印刷を続けている。少年はこのまま炬燵で寝ていたかったのだが、プリンターの音が五月蝿くて眠れなかったので、外に出ることにした。流石にもう雪だるまも話すことはないだろう。 「よぉ」 話してきたよ…… 少年は「はぁ……」と真白く輝く溜息を吐いた。両親を呼ぼうかとも思ったが、呼んだ瞬間にだんまりになるのは自明の理。呼ぶのはやめておいた。 「夢じゃ、なかったのか?」 「いい加減に雪だるまが喋ってるって現実を認めろよ」 「うるさいな」 「ところで、お前、友達いないのか?」 「な、なんで分かるんだよ!」 「この家の周り、お前と同じぐらいのガキがよく出てくるんだよ『あーそーぼ』って友達呼びに来る家ばっかりだぞ、ところがお前の家だけはスルーだ」 「あ、ああ…… 多分近くの公園で雪合戦でもやってるんじゃないの?」 「俺はそんな話をしていない、友達はいないのかと聞いている」 痛いところをつくやつだな。玄関前に置いてあるスコップフルスイングでぶっとばしてやろうかと少年は本気で考えてしまった。 「僕、小学校一年生だけど、友達なんかいない。入学式のころから誰とも話したことがない」 「ぼっちなんだ……」 「うるさいな。人に話しかけるのが怖いんだよ!」 少年は人見知りが激しい性格であった。幼稚園のころから教師より指摘はされていたのだが、それが治らずにいたのである。両親もそのうち友達が出来るだろうと楽観視しており、特に何もすることはなかった。 「お前、誰かが話しかけてくるのを待つつもりか? 待ってるだけじゃ友達は出来ないぞ」 「うるさい、だったら友達なんていらないよ!」 「寂しい奴だなお前」 「うるさい!」 少年は玄関前に置かれたスコップを振りかぶった。 「おいおいおいおいおいおいおい! 待て待て待て待て待て! この人殺しが!」 「お前は雪だるまだろ!」 「分かった! 俺だって製造(うま)れて一日で死にたくない! 友達になってやるから! だから助けてくれよ!」 話し相手ぐらいにはなるか。少年はスコップを置いた。口こそ悪いが話し相手にはなってくれる。それがいるだけで少年は嬉しく思うのであった。 「じゃ、お前と遊んでやるか」 「動けないじゃないか」 「心配はいらない。ちょっと、手外してくれないか」 少年は雪だるまが言う通りに枝の両腕を外した。すると、下玉をコロコロと転がして移動を始めた。 「器用だね」 「足が生えて動くよりは自然だろ。じゃ、公園に行くぞ」 「あ、待って。学校の奴らがいる近所の公園はヤダ」 「面倒くさいな。人がいない公園に行くぞ」 雪だるまはころころと転がり移動を始めた。少年はその後ろに追従する。雪だるまは向かい側から人が通る度に動きを止めて普通の雪だるまになりすます。少年はこの雪だるまが動いて喋ることが出来るのは『僕だけが知っている秘密なんだ』と、ちょっとした優越感を覚えていた。
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