スノーマフラー

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 翌日、先日までの雪空と違って外は青空を見せていた。ピーカンの空は雪化粧に包まれた町をいつもの姿へと戻していく。少年は雪だるまとの徒競走の約束を果たすために外にでた、すると、目の前には絶望的な光景が広がっていた。なんと、雪だるまが軟体生物のように溶けていたのだった。少年は慌てて雪だるまの元へと駆け寄る。 「よお……」 雪だるまは溶けかかっているのにいつもの気さくな挨拶をするも、声は掠れている。 「溶けてるじゃないか!」 少年は自分がかけたマフラーのせいだと思った。自分はばかだ、元々が冷たく寒い存在そのものの雪だるまにマフラーなんてして何の意味があるんだ。折角出来た友達を殺すような真似をして自分はなんて酷いことをしてしまったんだとその場で泣き崩れる。 「泣くんじゃ…… ねぇよ……」 「でも! でも! 僕のせいで……」 「俺は雪だるまだ…… いつかは溶けて水になる。それが早いか遅いか、それだけだ」 「溶けないでよ! 僕を一人にしないでよぉ!」 「俺みたいな、意味分からねぇ奴にマフラーかける優しさがあるんだ…… 普通はこんなこと誰もしねぇよ…… お前みたいな優しい奴ならきっと友達出来るぜ…… 今度は…… お前がまだ見ない友達に声をかける番だ…… 確かに知らねぇ奴に声かけるのは怖いかも知れねぇ…… でもな…… 声かけないと…… 分からないじゃねぇか…… お前みたいな…… 優しい奴が、声をかけてくれるのを待ってる奴がいるん…… だぜ…… 勇気を出して声をかけろ…… いいな……」 「嫌だよぉ! いかないでよ!」 「お前のかけてくれたマフラー…… 暖かかった…… ぜ……」 かろうじて雪だるまの体を保っていた上玉がボロリと崩れ落ちた。石の目玉が落ち、萎びた人参も地面を転がり、先程まで言葉を放っていた口の枝も虚しく崩れ落ちる。 少年は雪で湿って濡れたマフラーを抱きしめ、わんわんと泣き喚いた。 これこそが少年の初めて知る「別れ」であった…… 数時間後、少年は近所の公園へと足を運んでいた。公園では残り雪を使っての雪合戦に興じる同級生たちがいる。少年はそれに「いーれーて」と、声をかけようとするが、なかなかその勇気が出てこない。やっぱり人は怖いと諦めて踵を返そうとした時、ベンチに座る一人の少年の姿が見えた。昨日の橇の持ち主である。 「勇気を出して声をかけろ」 少年の脳裏に雪だるまの声が過る。少年は勇気を振り絞り、ベンチに座る同級生に声をかけた。 「ねえ、どうしたの?」 「あ、同じクラスの……」 4月に入学した同級生同士の初めての会話であった。二人はクラスに馴染めないぼっち同士だった。この少年も人に声をかけるのが怖くて友達が出来ずにいたのだった。 ベンチに座る同級生は声をかけられたことによってマフラーをかけられたような温かさを感じるのであった。 そして二人で雪合戦をする同級生に声をかける。 「「いーれーてー」」と。                                                                   おわり
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