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無いものは無い為、諦めるしか無かった俺は支社まで毎日旅行気分で出勤。新人期間を無事に終えれば、快適な通勤が待っている。自分にそう言い聞かせ、寂しさに押し潰されそうな日々を何とかやり過ごしていた。
そんな中、犬とはいえ寂しさの限界が近付いていた俺の元へと迷い込んできた目の前の現実に、途端、心が潤っていくのが分かった。
犬が驚かない様、静かに背後から忍び寄る俺。
「イッヌ、逃げないでくれよー」
興奮気味に話したい欲を抑えつつ、小声でニヤけながら捕獲する構えを取る。
迷い犬だったら、飼い主が見つかるまでウチで面倒……みてもイイ、よな?!
次の瞬間、肝心な犬に逃げられない様、素早く犬らしき金色のモフモフの身体を背後からがっちりと両手で捕まえる。脅えて動くことも無いソレを俺はそっと腕の中に抱きかかえる。
暖かい。
生命あるものの暖かさ、そして重みだ。
俺の胸は熱くなる。
「よし、イイ子だ。今日から俺がお前の飼い主様だぞぉー」
目尻を下げながら、子どもをあやす様な口調で腕の中のモノに話し掛ける。
「キミは、どんなお顔の子なのかなぁ?美人さんかな?それとも可愛い子かな?それとも……」
頬が自然と緩んでいくのを感じながら、顔を確認しようと顔をこちらへと優しく向かせる。
「……えっ?!何コレ?!えっ?えっ?!ナニっ?!人?!いや、違っ……コレは?」
顔を見た瞬間、俺は激しく動揺した。
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