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暗闇を抜けた先は“街”であった。 ルシファー=ゼロであるこの男には知る由も無いが、それは人間界の街と然程変わらぬ騒がしさを持っていた。 そんな街の一画を指指すロキに導かれ、ルシファー=ゼロは彼らと出会った。 「やぁやぁ我が子達。キミ達に集まって貰ったのは他でも無い。ある儀式をやって貰いたいからだ。」 女「儀式ぃ?」 声を発したのはブロンドのボブショートの女、アンジェラだった。 ボロ布を纏っているだけのゼロとは違い、生前の記憶からお気に入りの衣装を身に纏っていた。 茶髪をバンダナでオールバックにし、ジャケットから筋肉を覗かせたギル。対称的に少しキツめの赤いジャケットから筋骨隆々な肉体を見せずに魅せる大男・ディード。 他の堕天使を気にする素振りも見せず鏡を見て化粧をする黒髪おかっぱ頭のコトノハ。記憶から“錬成”したスマホでゲームに興じるピンクブロンドのカレン。 ギル、ディード、コトノハ、アンジェラ、カレン──ゼロ。 雑然とした“広場”に6人の堕天使を集めて、ロキは淡々と語り始めた…。 …これから彼らを待ち受ける運命について。 ギル「なぁロキさんとやら。」 「何だい?我が子よ。」 「その“我が子”ってのは何なんだ?俺達ゃアンタから生まれて来たってのか?」 「イヤ違うよ?ワタシがキミ達にすることは基本的には神を食らう為の力を授けることと、今後の戦況のサポートをする、それだけさ?」 「だがキミ達堕天使は家族も友人も全て失った存在だ。そんなキミ達を導くワタシが親のように振る舞うのはいけないことかい?」 「いいや?この際面倒臭いのは抜きにしようや。良いねぇ家族、兄弟ってな。 俺達ゃ生きるか死ぬかの瀬戸際で暮らすことになったんだ。なぁ兄弟!」 片手で低めのゼロを、もう片手で高いディードの背を叩くギル。 「兄弟。家族。悪くない響きだ。 だが俺達はまだ知り合ったばかり、“友達”辺りが妥当じゃないか?友よ…」 「何だい、気難しいねぇ…」 やんわりと断りながらギルの手を押し退けるディード。空いた手でバンダナを搔くギル。 「ディード様!!」 「何だキミは。俺はキミにまだ何もしていない。様付けをされる程のものは俺には無いよ。」 「いいえディード様!ディード様に会えただけで、“友達”と呼んで戴けるだけでこのカレン、一生の幸せです!」 アンジェラ「アンタの一生もう終わってるじゃない。」 「はは、そんなに喜んで貰えるのは嬉しいが、やはり大袈裟だよ、カレン♪」 「ぁあディード様に名前を呼んで戴けた!カレンもう死ねます!!」 ア「だからもう死んでるって。」 皆のやりとりを見て、ゼロは気になることがあり、ロキに尋ねた。 見たところコトノハ以外は日系とは思えない。ならば彼らが喋っているのは英語なのかと。 ──ゼロは言語機能に問題は無かったが、自分が何語を思考し、喋っているのか認識出来ていなかったのだ。 「イイヤ?皆バラバラの言語を喋っているよ?だがそれじゃ話にならないだろう?そう、話にならない。だから私がこの“本”で言語を書き換えているのさ♪ 天使や神々も発生した土地に依って異なる言語を持つ。神々と対話しろとは言わないが、言葉が分からないよりは分かる方が良いだろう?」 「さぁさぁ我が子達。お喋りタイムは後にしてくれたまえ。」 「──ここはこの世ならざるあの世。 この世界には、“天使”と“堕天使”と呼ばれる存在がいる。 ──そして、八百万の神と呼ばれる存在達も。」 「“天使”とは、生前の行い、または能力が神に依って認められ、神に仕えることを許され、神と同じ力──“魔法”を与えられて転生させられた存在のことさ。」 「じゃあ堕天使は?」と声が上がる。 「“堕天使”とは、一度死んだ人間が“神々さえ想定し得ない奇跡”に依って蘇ったもの。 神の敷いた条理に背く存在であり、神に仕える存在である衆生の人間=天使とも相容れない。 言わば生存そのものが許されない、反逆者達の集団なのだと。キミ達も常々覚えて置いてくれたまえ。」 「そして、そんな迷える子羊たるキミ達を導くワタシこそはロキ。 カレン君、キミもワタシのことを“ロキ様”と呼んでくれて良いんだよ?」 「ふーんだ。私優男はキライなの。」 顔芸で落胆を示すロキ。 「へいへいロキ様、お話の続きをどーぞ?」 あからさまに空気を読んで先を促すギル。 「ロキ…様。その神々さえ想定し得ない奇跡とは一体?」 「ウンウン♪良い心掛けだよディード君♪」 カレンとロキの間で勃発する顔芸合戦。それに挟まれ、心の中で良いから早く続きをと祈るディード。 「ンン…神々さえ想定し得ない奇跡。──言わば霊能力とも言うべき超能力で天界に到達したものが堕天使達。」 「そんな堕天使達に“神を食らう力”を与えるのもこの私、ロキの役目だ♪」 「ほー。神を食らうと来たか。面白くなって来たねぇ♪」 今まで話半分に聞いていたギルが興味を示す。 「ギル君も興味があるかい?この──“ラジエルの書”と呼ばれる魔導書のことに。」 『ラジエルの書?』 「この宇宙に就いての全てが記し纏められ、ちょっとした魔法なんかも扱えるお宝中のお宝のことさ♪ この本はワタシしか持っていないよ☆」 『…。』 こいつに説明を求めたのが間違いだった、と言うような集合的沈黙。 「堕天使は神に取っては許されざる存在であり、あらゆる神が戦いを挑んで来る。 堕天使達は神々を食らって力を手に入れる。 堕天した人間(キミ)達が最初に与えられるのは、他の堕天使達が倒した神々の死体。これを食らうことで堕天使達はこれまでとは別次元の“魔法”が使えるようになる。」 「魔法…」 「興味があるかい?コトノハ=カエデ。」 バッと本を開き、皆に見せるロキ。そのページには“穴”が空き、闇が顔を覗かせていた…。 「興味と覚悟がある者からこのページに手を突っ込むと良い。神々を食らう力が手に入る。 …だが一つ忠告だ。くれぐれも神に()()()()()()()()()?」 「そいつはどう言う意味だ?」 「言葉通りの意味さ、ギル=アルトラス。」 「…俺から始めよう。折角出来た大切な友人達をこんなところで失いたくない。」 「ありがたきお言葉…!ですがディード様!この役目はこのカレンにお任せを!!」 「──カレン。俺に任せて欲しい。」 カレンの肩を抱き、面と向かって語るディード。 「…はい♡」 「皆も、それで良いよな? 大丈夫。俺が無事に堕天使化した暁には皆の堕天使化を全力でサポートするとも!!」 『…。』 ディードの言葉に全員が頷き、ディードがそのページに腕を突っ込む。 「ディード=ソルダラー。キミの覚悟に祝福があらんことを!」 「くっ…フンっ!! ぉお…おぉう…」 ページから腕を引き抜き、溢れる闇とも光とも取れないそれがディードを包む。 「祝福しよう!我が子よ!! キミはこれで神々と戦うに相応しい、名実共に立派な“堕天使”となった!」 「おい兄弟、具合はどうだ?」 「余り良くは無いな…だがすぐに治まる予感がある。」 「じゃあ、パパっと男連中から終わらせようや♪ てな訳で次は俺だ。ロキ様。」 「了解した♪ギル=アルトラス。キミの覚悟に祝福があらんことを!」 「ぐぉおおおっ!!くっ!!ふぅー…」 ページから手を引き抜き、力がギルを包んだ後、ギルは左手が痺れたかのようにぷらぷらと振っていた。 「祝福しよう。我が子よ♪」 …どうやら大丈夫そうだ、と安堵するゼロ。 「次は俺か…」 「ンー、慣れてはいるがやはり間の抜けた文句になってしまうのは否めないな。 ──ルシファー=ゼロ。キミの覚悟に祝福があらんことを!」 『ルシファー=ゼロ?』 「茶々を入れないで欲しいな。神聖な儀式なんだからね?」 「ふぅー…」 意を決し、そのページに腕を突っ込む。 「くっ…!」 瞬間、何かに噛み付かれたような痛みが腕に現れ、やがて全身に広がって行った…。 「うぁああああっ!ふぅ…ふぅ…」 「祝福しよう。我が子よ♪これでキミも晴れて正式な堕天使の仲間入りだ☆」 「これが…神々の、()()使()の力…」 全身に力がみなぎるのを感じていた。…と同時に、力が暴れ出し、それに呑まれそうになる感覚も。 …呑まれたらどうなるのだろうか?とゼロは不安になった。 「さぁ、次は誰かな?☆」 「私!私!」 「カレン=シャイド。キミの覚悟に──」 「ディード様!ディード様!もしもの時はよろしくお願いしますね♡」 「あ、ああ…分かったよ、カレン♪」 「ぁあ…♡」 「──キミの覚悟に祝福があらんことを!」 ──男連中の堕天使化は長くて20秒程度であったが、カレンの堕天使化には2分程掛かった。 カレンは長い間悶え、ディードは目に毒だと思いながら耐え、サポートに備えていた。…が、結論から言えばサポートの必要は無く、カレンは自力で堕天使化に成功した。 それをカレンはやや残念がっていた。なだめるディード。 「次は…」 「わ、私は最後で…皆、サポートお願いね?」 頷く皆。 「では私か…」 「コトノハ=カエデ。キミの覚悟に祝福があらんことを!」 コトノハの堕天使化には約1分間掛かった。 「さあ、アンジェラ=エイト。キミの番だ☆」 「え、えぇ…」 恐る恐る、震える手をページに突っ込む。 「う、うぁああああああ!!!」 約3分間、絶叫し悶え苦しんだアンジェラ。 仲間達は失敗なのか、サポートが必要なのかとロキに詰め掛けたが心配無いと笑うだけだった。 「祝福しよう!我が子達よ!! 無事全員が神々と戦う力をその身に宿した。 中には、ここで脱落する者もいるからね♪あー良かった良かった☆」 ギル「ちょ、それ早く言えよ!?」 扱いにくい指導者だと誰もが辟易した。
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