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この薄っすらと白んだ傷を見て、私は思った。
(もう、私は一番でわないのね)
脳裏に浮かんだ手編みのマフラーを考えながら、手元でチクチクと編む動作をする。
「何をしているんだい?」
気が利くあなたは、私の仕草を見逃さなかった。
「今ね、マフラーを編んでいるの、クリスマスプレゼントにどう?」
「それは、随分素敵だね。 待っているよ」
ニッコリと笑いながら、車を走らせていく。
少し揺れる車体と同調するかのように揺らめく夜景に、私の心は溶けていく。
それから数日後に、突然電話が鳴る。
『もしもし、どうかしたの?』
『あぁ、実は先日クリスマスがっていう話したじゃないか』
『うん、それが?』
『すまないが、その日急に出張になってね。都合がつかなくなったんだよ』
これも、慣れたやりとりになってきた。
もう何度も、幾度もこういった場面を経験すると、さして驚かない。
『わかった。お仕事なら仕方がないでしょ』
精一杯、悲しみを含んだような口調で話しかける。
『本当にすまない、ただきっちりと暇をつくるから、埋め合わせはする。楽しみにしているよ』
『大丈夫、きっちり埋め合わせしてね』
安堵したような口ぶりに、気をよくした彼は、もう一度軽めの謝罪を済ませ通話を切った。
(大丈夫、きっちり埋め合わせしてもらうから)
リビングに用意されたソーセージの盛り合わせに、自家製のザワークラウトを添えて、ワインのコルクを抜く。
少しだけくたびれたソファーに腰掛け、テレビの横に陳列された私の愛しいコレクションを見ながら、グラスにお酒を注いでいった。
「乾杯♪」
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