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強い風に吹かれて、少女の足が一瞬よろめいた。長い髪が視界をふさぐのを防ごうとして手で抑える。
その時に車が自分の横で停まったのはただの偶然だと思った。
そこには信号も何もなかったのだと、そう思い出した時にはドアが開いていた。
驚きに声が出ない。目の前に真っ暗な車内が口を開けている。暗さに目が慣れた後に飛び込んで来たのは、痩せぎすで目ばかりが目立つ無精ひげの男。
細い腕が、それに似合わず強い力で少女の体を車に引き込んだ。
助手席に引き倒される。上から男が覆いかぶさって来る。叫ぼうとしても震えるだけで音にならない悲鳴。体に力が入らず、暴れることも出来ないまま、男が自分の体を車に担ぎ込みドアを閉める音を聞いていた。
何が起きているのか、実感が沸かない。
目は確かに開いているはずなのに、脳には何も記憶出来ない。
少女の頭の中は、ただ真っ白になっていた。
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