序幕

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序幕

燃え盛る炎が黒い闇を撫で回す。 妖艶を撒き散らし、大地を炭に変えていく。 風が吹き荒れる中で聖女は青い眼差しに透明な涙を浮かべている。被っていたフードが風に引き離され、艶やかな髪が露になる。 纏う衣服には血糊がこびりつき、はだけた皮膚からは血が滲み出ている。白い肩に生傷が浮き上がり、頬には返り血が跳ねている。唇は紅く映え、清楚というよりはどこか生々しい色気がある。 「悪魔から生まれた女!」 騎兵が吠えて斬りかかる。 炎が道を分けた矢先、大鎌が騎兵の身体を切り裂いた。騎兵は真っ二つに割れて炎に呑まれた。 真っ黒な衣服を着た男は、聖女の傍らに立った。黒い外套の裾がひらひら揺れた。 熱を帯びているにもかかわらず、男は無表情だ。熱さを関知しないのか、汗すら掻いてない。男は無言のまま聖女の腕を強く掴んだ。 放心状態の聖女が男を見返した。 我に返ったのか、男の手を払おうともがく。 男は右手に持っていた大鎌を消すと、聖女を力任せに抱え込んだ。 「はなせ。シオン!」 聖女が暴れる。 「手を焼かせないでくれよ。静かに暮らしたいんだろう」 シオンの表情が僅かに動く。怒りというよりは呆れと諦めに取れる複雑な表情だ。 「いいから、おろして!」 「次の街まで担いでいくよ。次はどこがいいかな?」 熱風が吹き荒れる中で余裕綽々とした態度のシオンに聖女はなにも言い返せない。 聖女から涙は消えている。 シオンが歩き出せば聖女の抵抗は次第におさま っていく。 男はシオン。聖女はノア。 二人はグラス大陸を西へ向かう。 そこに何があるわけでもない。 二人は、探している。 安住の地を。
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