優しい声と……

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優しい声と……

「大和、起きてるか?」  俺ははじかれたように顔を上げ、応対する。 「あっ、うん。起きてるー」  慌ててドアを開けると、黒のパジャマ姿の兄が立っている。 「確か、W大の問題集と参考書、おまえの部屋にあったよな。ちょっと貸してくれないか」  そう言った伊央利は綺麗に片付いている俺の机の上を見て、呆れたような声を出す。 「こら。大和。おまえ、勉強追い込み掛けなきゃならないときだろ。なにサボってんだよ」 「あ」 「あ、じゃない。おまえ、今の成績だとW大は危ないんだからな。分かってんのか? 俺と一緒の大学行くんだろ?」 「うん……」  そうなのだ。俺は伊央利と同じW大を志望している。そして伊央利の方は余裕で合格圏内なのだが、俺の方はギリギリのライン上なのである。 「あーもう仕方ないな。確かおまえ数学が弱かったよな。問題集出して。教えてやるから」 「えっ……あっ、うん」  それから二時間みっちり数学の勉強をさせられて、気づけば俺は眠ってしまったようだ。  ふわっと体が宙に浮くような感覚を夢うつつで感じる。眠りたいと訴えるまぶたを無理やりこじ開けたのと、体が柔らかい何かに横たえられたのが同時だった。  すぐ目の前に伊央利の端整な顔があり、横たえられたのはベッドで。  半分寝ほけているのと、大好きな人の優しいまなざしがすぐ傍にある安心感に、俺の顔はふにゃんとだらしなく緩む。 「お疲れ様、大和。よくがんばったな」  子守歌のような優しい声音で囁かれ、とうとうまぶたが音を上げ閉じていく。そこに押し当てられる少しひんやりとした柔らかな何か。それは何度も何度もまぶたに押し当てられ、やがてかすめるように唇に触れたかと思うと、耳元で伊央利の声がした。 「おやすみ」
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