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焦げたカレー
さやかは母方の従姉妹で俺たちと同い年だ。我が家から電車で二駅のところに住んでいて、しょっちゅうこんなふうに夕食の差し入れをしてくれる。
いわゆるボンキュッボンのスタイルな美女だ。
俺が彼女を苦手な理由は言わずもがなだろう。
そう、早い話がやきもち。伊央利とさやかが一緒にいるのが嫌なのだ。
美男美女の二人はそこにいるだけで絵になり、俺はなんだか疎外感を覚えてしまう。
それに普段は女の人に対してクールな伊央利がさやかに対しては親しく接するのも面白くない。
そりゃ従姉妹なんだから当然なのかもしれないけど嫌なものは嫌だ。
さやかに夕食の支度を手伝ってもらうのも抵抗があるが、かといってリビングで伊央利とさやかを二人きりにしておきたくもないので、俺はリビングとダイニングキッチンを仕切る扉を全開にした。
しかし、今度は二人が何を話しているのかが気になり、なかなか料理に集中できず、結局俺は、この夜も盛大に鍋を焦がし、かろうじて炊いてあったご飯とさやかが持ってきた筑前煮だけをおかずに夕食を食べることになった。
夕食前にさやかは帰っていき、俺たちは順番にお風呂に入ったあと、向かい合って夕食を取る。ダイニングには俺が焦がしたカレーの匂いがまだ充満していて、惨めな気持ちになってしまう。それに比べてさやかが持ってきた筑前煮は完璧な出来栄えで、惨めさが増す。
「大和? どうした? 食欲ないのか?」
なんだか落ち込んでしまって一口が重い俺の様子を見て、伊央利が心配そうに聞いてくれる。
「ううん。そんなことないよ」
「もしかしてカレー焦がしたこと気にしてんのか? あんなのおまえの平常運転だろ。まあ、もうあの鍋は使い物にならないだろうから母さんには怒られるかもしれないけど」
「うん……」
伊央利の言葉にうなずいたとき、パタパタッとテーブルの上に水滴が落ちた。
「……えっ? おい? 大和?」
伊央利が酷く戸惑ったような顔と声でこちらを伺ってくる。
「なに?」
俺の声はなぜか随分鼻声で。
「なに泣いてるんだよ!?」
「えっ? 俺、泣いてなんか……」
しかし手で頬に触れると確かにそこには濡れた感触。
「どうしたんだ? 学校でなにかあったのか? まさか誰かに嫌がらせとかされたんじゃないだろうな」
目の前には怖いくらい真剣な顔をして心配してくれる大好きな兄。
「なにも、ない」
俺自身、なんで自分が泣いているのか、分からないのだ。
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