あたたかな涙

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あたたかな涙

「…………」  伊央利はしばらく俺の顔を見つめ考え込んでいたかと思うと、掛け時計に視線を移し、そして立ち上がる。 「出かけるぞ、大和」  俺の濡れた頬を大きな手で拭ってくれたあと、伊央利は突然言い出した。 「え? 出かけるってどこへ?」  きょとんとする俺の手首を伊央利がつかむ。 「スーパー。まだこの時間なら開いてるだろ」 「スーパーって、何しに?」 「何しにって、カレーの材料買いに行くんだよ」 「えっ?」 「さやかには悪いけど、今夜は俺、筑前煮よりカレーの方が食べたい」  俺の手首を握っていない手で頭を撫でてくれ、髪をすくようにしてくれる。 「二人で一緒に作って、食べよう、大和」 「……伊央利……」  目尻から温かな涙が零れたことが、今度ははっきりと分かった。  二人でおしゃべりしながら作ったカレーはとてもおいしくて、伊央利は当然のようにお代わりしていたし、どちらかと言うと食の細い俺も珍しくお代わりをした。  それぞれの部屋に引き上げたあとも、俺の気持ちは幸せで満ち溢れていた。  永遠の片思いをしている俺をかわいそうに思って、神様がご褒美をくださったのかなー。  机に頬杖をついてぼんやりとそんなことを考えていると、ドアがノックされ、伊央利の声が聞こえた。
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