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夏彦side-1
年末年始の二週間、この家に住んでいる俺のジイさんが、ふと思い立って、友人の家に遊びにいくと言い始めた。ジイさんは今、一人暮らしだ。家業があるので家を空けるわけにはいかない。留守番が必要だということになり、まだ定職についていなくてフラフラとしていた俺に、白羽の矢が立ったわけだ。
ジイさんの家に来て五日目。
目が覚めるとあたり一面は、真っ白に塗りつぶされた雪景色。不覚にも心弾み、駆け出して家の周りにたくさんの足跡をつけた。
「ああっ、せっかくの雪なのに。綺麗なままとっとけば良かったかな?……ま、いっか」
もう大人なのに、年甲斐もなくはしゃいでしまった。誰かに見られなかったかとコッソリ辺りを見回すが、年寄りが数人しか住んでいない限界集落の雪の朝だ。人っ子ひとり見えない。
家の中でコタツに潜り込んでいると思うだろう?
甘いな。
みんな、山の上の畑に行って、朝から一仕事してるのさ。遊んでいるのは俺ひとり。
さてっと、俺も働くか。
家に戻ろうとした時だった。
「あのー」
「え?」
振り返ると高校生くらいの女の子がひとり、坂の下に立ってこっちを見ている。
……いつからいたのだろう?
「もしかして……見てた?」
「ええ。楽しそうに走っ……、いえ、見てません。何も見てません」
慌てて首を振る女の子に、俺は顔から火が出るかと思った。
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