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女の子は坂の下からテクテクと歩いて、あたふたしている俺の前まで来る。
今時珍しい程の黒くて真っ直ぐなおかっぱ頭。小柄だからつむじが見えるぞ、かわいいな。
白い肌に小さなピンクの唇。細くて少し吊り目がちなのも、欠点にはなっていない。雰囲気と似合っていて、クラシカルな美少女だ。
いつの間にかそこにいたから、一瞬雪女じゃないかと疑ってしまう。けど頰ををほんのり上気させて、白い息を吐いているから、多分違うはず。違うよね。
「あの、ここの村の方ですか?」
「あ、うん。えっと、君は下から歩いてきたの?」
「はい」
「大変だったんじゃない?」
この村、本当に山奥にあるんだ。一番近いバス停からこの家まで三十分以上歩かなきゃいけない。しかも今日はこの雪だ。
「はい。途中で道に迷っちゃって……。おばあちゃんの家に行きたいんですけど」
「迷ったのか。隣の山にもうひとつ村があるからなあ。そっちかもしれないよ。おばあちゃんの名前聞いてもいい?」
「山田です。山田シノ。先月……亡くなったんです」
俯く彼女を見て、不躾に聞いたことを申し訳なく思う。
「ごめん、シノさんのお孫さんなんだ。そか……。寂しくなったね」
「おばあちゃんを知ってるの?」
「うん。小さい村だからね。シノさんの家はここから十分くらい歩いた上にあるけど、案内しようか?」
「ありがとうございます。じゃあお願いしていいですか?」
俺は大きくうなずいて、シノさんの家に向かった。彼女は後ろから黙ってついて来てたけど、ふと気づくと左足を少し引きずっている。
「足……」
「あ、さっき転んじゃって……。でも大丈夫です!」
そんなこと言いながら、痛みに顔を歪めて歩くのを見たら、放っては置けない。
「そこ、俺のジイさんの家なんだ。足の手当てするから、おいで」
「え、でも、悪いです、そんな……」
「いいから、いいから」
遠慮する彼女を引っ張って、ジイさんの家まで戻る。玄関の戸を開けて、上がり框に座らせた。
「ちょっと待っててね」
さて、救急箱はあったかなあ。
怪我してるのに不謹慎だけど、可愛い女の子と、もう少し一緒にいられるのは、嬉しいかもしんない。
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